mikami lab.@北海道大学 科学技術コミュニケーション研究室

北海道大学で科学技術コミュニケーション・科学技術社会論を担当している三上直之のサイトです

「社会との対話・協働」に関する研究開発

所属先の高等教育推進機構が年に3回発行しているニュースレターの巻頭に、自分の研究について自由に書いてよいという機会を頂きました。着任から来月で丸8年となる研究部門での活動をふりかえってみました。

ニュースレターは下記のところでも全文PDFでお読みいただけますが、自分の記事の部分のみ、ここにも再録します。写真は3点とも、ウェブサイトへの転載に際して追加したものです。
http://high.high.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2016/09/106.pdf

高等教育研究部門の使命

高等教育研究部門は,高等教育における将来的な諸課題に関する研究と,具体的な問題解決を使命としています。この二つをつねに車の両輪として意識しつつ,教育制度改革や入試改革,授業法の改善,研修プログラムの開発,教育評価,生涯学習,地域連携などの多様なテーマに,部門所属の教職員が臨機応変にチームを構成して取り組んでいます。

この部門に着任して9年目になりますが,大学教育の現場における課題解決の実践と,それを中長期的に支える研究開発に同時に携われる環境は,この部門の魅力であり,組織的にも大きな強みであると感じています。そうした中で,私自身が主に担当してきた研究課題の一つに,「大学と社会の間の対話・協働の促進」というテーマがあります。

大学の教育研究の成果を外部にわかりやすく発信して説明責任を果たすとともに,高等教育や学術研究に対して社会各層から寄せられる期待や懸念を的確にキャッチする双方向コミュニケーションが強く求められています。今年策定された政府の第5期科学技術基本計画もこの点を改めて強調しており,大学や公的研究機関は,研究者が社会と向き合う場,多様なステークホルダー(利害関係者)と対話・協働する場を創造する必要があると,明確に述べています。人文社会系の諸分野でも事情は同じです。こうしたトレンドにいかに対処し,社会的責任を果たしていくかは,本学のように研究と大学院レベルの教育に重点を置く大学にとって,将来にわたる最重要課題の一つです。

サイエンスカフェの先へ

社会との対話を促進するため,ここ10年ほどの間に各地の大学に普及した取り組みに,サイエンスカフェがあります。本学でも,CoSTEP(オープンエデュケーションセンター科学技術コミュニケーション教育研究部門)が,2005年から札幌駅前の書店で定期的に開催し,科学技術に関するオープンな対話の場を提供しつづけています。私も以前,CoSTEPに勤務しており,草創期にあった本学のサイエンスカフェの企画運営を約4年間,担当しました。

サイエンスカフェ紀伊國屋書店札幌本店で)

サイエンスカフェは,気軽に話したり交流したりという場をつくるには適していますが,対立を含む込み入った話題について突っ込んで話し合ったり,合意形成したりするには,異なるやり方が必要です。科学技術基本計画でも,サイエンスカフェが挙げてきた成果に触れつつ,「多様なステークホルダーを巻き込んだ円卓会議,科学技術に係る各種市民参画型会議」などをさらに充実させる必要性が指摘されています。このような手法を大学が先頭に立って編み出し,対話・協働の場を創造していくことが期待されているのです。研究部門では,大学がこうした社会的要請にこたえる方法を明らかにすべく,基礎的・応用的研究に取り組み,成果を学内外に還元してきました。

科学技術への市民参加の手法開発

その一環として,科学技術に関する市民参加の手法開発を,科研費など複数の外部資金を継続的に獲得して進めてきています。2011年には,「討論型世論調査(DP)」手法を,科学技術に関する対話・協働の手法として応用する可能性を探るため,CoSTEPと共同で,札幌市や北海道新聞,米国スタンフォード大学などの協力を得て,BSE牛海綿状脳症)問題をテーマに市民3,000人を対象とした社会実験を実現しました。この実験は,科学技術コミュニケーションの分野にDP手法をいち早く導入する試みであり,翌年には,福島原発事故後の国のエネルギー戦略を策定する際,同手法が公式に採用されるという展開もみました。

また,バイオテクノロジーやナノテクノロジーなどの萌芽的科学技術について,ステークホルダーの対話・協働を促す手法も研究しています。

これらの研究を通じて得た知見やノウハウの還元にも積極的に取り組んでいます。文部科学省環境省,北海道,札幌市を始めとする行政機関等に対して,各種委員会への参加や共同研究を通じて,対話・協働の進め方や,リスクコミュニケーションに関する知見を提供しています。学内の部局等や研究者による対話・コミュニケーション活動への助言も,随時行ってきています。

一昨年には,一連の活動に対して,「科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)」を,杉山滋郎名誉教授(CoSTEP前部門長)らとの連名で受賞しました。

大学公開講座の研究

「大学と社会の間の対話・協働の促進」という課題のもとで,2年ほど前から力を入れているのが大学公開講座の研究です。

大学の生涯学習支援の機能や,地域連携,社会貢献のあり方を実践的に研究する場として,当研究部門では従来から,毎年7月に開催される「北海道大学公開講座(全学企画)」の企画運営を学務部とともに担当しています。この公開講座は,40年前に始まって以来,研究総合大学が全学をあげて実施するのにふさわしい広がりと深みを持つものとして,多くの地域住民にご参加いただいてきました。この蓄積を生かしつつ,さらに社会との対話の窓口として発展させるため,本学の中期計画や近未来戦略に即した全学型公開講座のあり方の研究を進めています。

受講者アンケートの詳細な分析に始まり,他の国立総合大学を訪問して公開講座の状況を直接ヒアリングするなどの調査も行っています。調査からは,我が国の研究総合大学において全学型公開講座が社会貢献,地域連携の主力プログラムであり続けており,その位置づけが高まっている状況も見えてきました。

公開講座の講師に事前に取材する学生たち(農学研究院・野口伸教授の研究室で)

こうした結果を踏まえて,本学の全学公開講座でも,従来は平日夜間のみだった日程を,一部休日の昼間に移動して若年・中年層の参加に便宜を図るなどの改革を,全学の教員で構成する公開講座実施部会でもご議論を頂きながら進めています。また今年度は,全学教育の一般教育演習(フレッシュマンセミナー)「聞く力・話す力のトレーニング」という授業の一環として,本学の1年生たちが,公開講座の舞台に立って案内役を務めるという実習も始めました。地域の方々に,本学の研究のみならず教育の一端もご覧いただく機会をつくれればという意図を込めての試みです。学生たちの初々しいプレゼンテーションは,幸い受講者からも好評をいただいています。

対話・協働の研究センターとして

ここでご紹介した研究と実践は,大学院レベルの教育と連動する形で行われています。私も含め当研究部門の専任教員のうち5人が,理学院自然史科学専攻科学コミュニケーション講座で修士課程,博士後期課程の教育を担当しています。科学と社会との対話・協働のあり方に関する専門人材の養成にも,同時進行で取り組んでいるのです。

大学院・CoSTEP合同のゼミ(JJSC合評会)の様子

学術のオープン化の必要性が叫ばれる昨今,大学と社会の間の相互作用を自己言及的に教育研究の主題とすることは,とりわけ研究に重点を置く大学にとって,ますます期待されるようになってくるものと思われます。国内外の主要な研究大学が,科学と社会との関わりについて,大学院レベルを含む教育と実践の役割を伴った研究センターを持つようになっていることは,その現れと言えます。高等教育研究部門は,本学におけるそうした機能の一翼を実質的に担ってきており,今後,他の研究テーマともさらに有機的に連関させつつ,この課題に関する研究開発を展開していく必要があると考えています。
北海道大学高等教育推進機構「ニュースレター」No.106,2016年8月31日発行)