mikami lab.@名古屋大学 大学院環境学研究科 環境政策論講座

名古屋大学大学院環境学研究科 環境政策論講座の三上直之のサイトです。2023年10月に北海道大学から現所属に異動しました。

【NC日記】第13週:2022年8月22日〜28日

8月22日(月)

6:40頃、研究室へ。国立国会図書館の調査「科学技術のリスクコミュニケーション」の第2回研究会。

科研費の申請書を大学から日本学術振興会に提出する最終期限は9月5日だが、手続のため、遅くとも来週初めには学内の担当部署に提出しなければならない。あと1週間。明らかに作業が遅れている。ひとまず、研究会が終わった後すぐ、研究分担者に宛てに、申請書本文のうち現在読める状態になっている2ページ分を送って状況報告。研究室にこもって書類を書き続ける。

8月23日(火)

今週は、オーストリアインスブルックECPR(European Consortium for Political Research)大会が開かれている。会場で参加したかったが、コロナ対策の一環として報告がない人はリモート参加のみという方針なのでZoomで傍聴する。申請書を書きつつ、時々手を休めて学会を視聴する。Democratizing Democratic Innovationsのストリームに興味深いセッションが多数ある。全部聴いていると申請書が進まないので、Stephenが報告する気候市民会議についてのセッションなど、いくつかに絞って傍聴。

今日は終日宿舎で、ECPRを時折視聴しつつ、基本的にはパソコンにかじりついて申請書を作成した。

8月24日(水)

午前4時から1時間、脱炭素化技術ELSIプロジェクトのミーティング。メンバーの予定が合う時間がなかなかとれず、この時間に。

朝7時半ごろ大学へ。8時からオンラインで北大の研究室のスタッフと、事務と研究、それぞれの定例ミーティング。終了後、11:00から東京都杉並区の住民グループ「ゼロカーボンシティ杉並の会」が主催するオンラインセミナーで講演。予定の1時間半ではさばききれないほど多数の質問が出た。6月に初当選した岸本聡子区長や、区の環境部の人たちも参加していた。岸本区長は6月の選挙時に、気候市民会議の設置を政策に盛り込んでいる。杉並区では、どんなふうに気候市民会議が活用されるのか注目したいし、こうした現場で住民と行政の協働によって熟議プロセスが建設的な形で用いられるよう、側面からサポートするような研究を行いたい、と改めて思った。

午後はまた学会参加と申請書作成。20時頃、宿舎に帰る。長い1日だった。

8月25日(木)

前日に続き、午前4時から脱炭素化技術ELSIプロジェクトのミーティング。今年度後半に実施するワークショップの議題を絞り込む議論。終了後すぐ、5時からは科研費の申請のため研究協力をお願いする行政関係者とのミーティング。終了後すぐに支度して、6:20頃、宿舎を出る。

7:00から国立国会図書館の第3回研究会。この研究会では、各回2〜3人ずつの分担執筆者に、最終的な報告書で担当する章の執筆構想や、そのために進めている調査・検討の内容を報告していただいている。企画した時点では、分担執筆者には報告を担当する回には最低限参加していただくにせよ、その他の参加者は代表者である私と国立国会図書館のスタッフぐらいだろうと想像しており、こじんまりと開くイメージでいた。ところが始まってみると想像以上に出席率が高く、国会図書館側からも直接の担当者以外にも参加があり、ほぼ毎回20人程度の参加者で活発に議論が行われる研究会になっている。

終了後、科研費の申請書作成作業の続き。考えている申請内容を、逐一スタッフのKrさんに口頭や文章で共有し、それに符号する形で経費の積算作業を進めてもらってきた。どうにか完成に近づいてきたが、ハイランド行きまでに完成させることはできなかった。

8月26日(金)

日本時間の金曜日午前中には、現時点での申請書案を一度、研究分担者・協力者に共有しておきたいということで、午前2時頃、送信した。まだ1〜2割空欄のところが残っているのと、文章の推敲や積算の精査はまだ必要だが、どうにか提出できそうな感じにはなってきた。この申請書を持ってハイランドに出かける。提出は出先からだ。

昼前には一度作業を切り上げ、いつもの床屋で散髪の後、金曜日なので学食でフィッシュ&チップス。

昼休み、いつもの中庭

部屋に戻って荷物の準備。17時頃、徒歩で中央駅へ。17:55の列車でグラスゴーまで行く。今月2度目のグラスゴーだ。クイーンストリート駅に近いホテルに泊まる。

8月27日(土)

朝、ホテルで比較的ゆっくり朝ご飯(Full Breakfast)を食べてから、スーツケースを持ってブキャナン・バスステーションへ。10:00発のバスに乗り込む。ゲール語で「翼」の島、という意味の「スカイ島(Isle of Skye)」のポートリーまで約7時間の旅。自分で運転しなくてよいのは気楽。天気が素晴らしく。移り変わるハイランドの景色を堪能した。ただ車内はそれなりに込み合っていて、コロナ感染については若干の不安がある。マスクをして過ごした。

これから山に行きます、という感じの乗客が目立つ(グラスゴーのブキャナン・バスステーション)

グラスゴーからスカイ島に向かうバスの中。基本的に満員

見渡す限りの荒野と湖の中を行く

夕方、ポートリーのホテルにチェックイン。湖が見える静かで快適な部屋。イギリスに来て3カ月、大学の宿舎では毎日、朝から深夜まで車の騒音がある。夜、静寂の中で眠りにつけるのは、それだけで幸せだ。申請書の仕上げもしながらの旅なので、これは助かる。明日は誕生日。とてもありがたいプレゼントである。

ポートリーのホテルの部屋からの眺め

スカイ島で迎えた誕生日

8月28日(日)

49歳になった。湖水地方で参加したのと同じようなミニバスによるツアーで、スカイ島を一周。湖水地方以上に、最果て感のある景色を堪能。乗客は十数人で、バスはほぼ満席だったが、マスクをしている人はほとんどいなかった。自分もほとんどの時間、外して過ごした。アメリカから来た若い女性3人組や、隣に座った大学院生の中国人男性(法学専攻)などと途中、話しながら楽しく過ごす。

島の西端、ネイスト・ポイント(Neist Point)。散策を終えてバスに戻る15分ほどの間に、霧に包まれてしまった

Uigの町の近く、Fairy Glenという場所

そそり立つ巨岩、Old Man of Storr(オールド・マン・オブ・ストール)。昔は周辺を航海する船の目印にもなったという

1日中、車に乗っていて、18時頃解散した時にはくたくただった。外で食事する元気がなく、ポートリーのスーパーで弁当を買って帰る。夕方、飲み物を持ってホテルの庭に出てくつろぐ。今日は誕生日ということで、実家の親への近況報告をビデオメッセージにしてみた。

明日は月曜日。いよいよ申請書を仕上げて提出しなければならない。作業は朝早く起きて再開することにし、早めに就寝した。

【NC日記】第11週・第12週:2022年8月8日〜21日

8月8日(月)

早朝、研究分担者に参加依頼のメールを送り始める。並行して、研究部の業務についてオンラインでミーティング。

天気が良いからか、昨日までの4日間の湖水地方旅行の効果か、科研費の申請が少し進み始めたからか、それらの複合でかはよく分からないが、意外なほど気分が軽い。

申請書の作成は、研究の目的や内容、研究組織の輪郭が見えてくると、計画の細部で詰めるべき部分や、それらをどう表現するかについて、山ほど考えるべきことがあることがわかってくる。特に今回は、自分自身が代表として応募するものとしては、初めて挑戦するサイズの研究組織、予算規模なので、全てのことが手探りだ。

17:00頃、大半のメンバーに依頼のメールを送り終える。かなり疲労困憊。気分の軽さは残念ながらあまり長持ちしなかった。その後、翌日の大学院ゼミの文献購読のレジュメを作成。どうにか作り終えて、パブでビールを一杯飲んで帰宅。

8月9日(火)

5:00起床。今日から科研費の研究分担者や協力者との打ち合わせが始まった。今日は6:00からと9:00からの2件。無事に終わる。11:00から大学院ゼミの前期最終回。バーガー&ルックマン『現実の社会的構成』輪読の最終回。自分が報告担当。この本を一緒に読むことで、受け持ちの博士の2人とともに、また修士の大学院生も加わって、社会学的なものの見方や考え方について議論できたのは良かった。

ゼミが終わって完全にくたびれたので、昼ご飯を買ってキャンパスの隣のLeazes Parkへ行くことに。家族と電話で話しながらお昼を食べつつ散歩。研究室に戻って、研究協力者への連絡の続きと、雑用を少々。まだ依頼のメールを送るべき研究分担者が5人残っているが、明日以降にすることにした。

8月10日(水)

今日は6:00から研究分担者との打ち合わせを3件連続で10:00まで。皆さんに参加を快諾いただくことができ、その点では至って順調なのだが、計画に盛り込むべきアイデアをすでに多数頂いており、明らかに消化不良の状態。昼ごろまで、打ち合わせで出た宿題に対応する作業などをしつつ、午後からの旅行の支度。

14時過ぎに荷物を持って宿舎を出る。天気が良いので、街中をぶらぶら散策しつつ徒歩で中央駅まで移動。列車でグラスゴーへ。

ニューカッスルのセントラル・アーケード

スコットランドに行くのは6年ぶり2回目。前の訪問は2016年9月、宮内泰介さんとレズリー・メーボンさんが主催する地理学研究者、環境社会学研究者を中心とした日英交流ワークショップに参加するため、エディンバラ大学を訪問した時だった。同年5月には札幌でイギリス側のメンバーを迎えて同ワークショップの1回目が行われており、ニューカッスルでの共同研究者であるStephenと知り合ったのは、この時であった。

19:30にグラスゴーに到着。まだ明るく、多くの人が屋外で飲んだり食べたりして賑わっているのが、いかにも北国の夏、という感じ。札幌の大通公園のビアガーデンを思い出した。

夕方、グラスゴーに到着。19:30でもこの明るさ

8月11日(木・祝)

今日は日本は山の日でお休み。そこで、科研費申請の準備作業は1日お休みにし、以前から行きたいと思っていた、ニュー・ラナークを見学。協同組合や労働運動、社会主義思想の先駆けとなったロバート・オーウェン(1771-1851)が、紡績工場の経営者として数々の実践に取り組んだ地である。グラスゴーから列車で1時間ほどの田舎町、ラナークの中心から歩くこと、約20分。紡績工場や労働者用住宅、学校などの建物が修復・保存されており、世界遺産にも登録されている。建物の中には当時の生産や生活の様子、オーウェンについての展示などもあり、1日かけて見学した。ミュージアムとしてのつくりはやや雑な感じもしたが、建物は外観を中心に素晴らしく保存されていて、側を流れるクライド川と合わせて、美しい景観だった。

ニュー・ラナークとクライド川

8月12日(金)

科研費の申請に向けた研究打ち合わせを再開。6:30から11:00にかけて4件連続でオンラインミーティング。話は順調に進んでいるが、さすがに疲労困憊。終了後、ホテル前のパブで遅い朝食を食べてから街に繰り出す。ケルヴィングローブ美術館・博物館を、グラスゴーの工業化の歴史についての展示を中心に見学。乗り降り自由の観光バスを使って、グラスゴー大学や大聖堂、また昨年、国連の気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が行われたコンベンションセンター(これは横を通過するだけ)などを見て回る。

帰りは直通の特急でニューカッスルまで。途中、Berwick upon Tweedを過ぎたあたりから濃霧に。行きにツイード川を渡る陸橋のあたりの景色が趣深く、もう一度よく見たかったのだが、かなわなかった。今度はまたよく見ることにしたい。濃霧の影響で少し遅れたが、21:40頃無事に帰宅。朝が早い日が続いていて寝不足になっていたので、久しぶりに十分睡眠をとった。

8月13日(土)

科研費の申請作業を進めつつ、次の旅行の計画。夏のうちにスコットランドをしっかり見ておきたいと考えていて、その第2弾のプランを考える。とくに北部のハイランドとアウターアイランズシェトランド諸島オークニー諸島)は、せっかくならば夏のうちに訪れておきたい。色々と行きたい所があるのだが、全てはとても行けないので行き先を絞り込み、どうにか連続した日程が取れそうな8月26日から31日に、まずはグラスゴーからバスでスカイ島に行き、その後、インバネスに行ってネス湖も見て帰ってくる計画を立ててみた。スコットランド第2弾としてはこれが限界だろう。

アウターアイランズの方は、オークニー諸島に絞って、第3弾として改めて飛行機で出直すことにしよう。9月中旬の敬老の日を含む連休を中心に5日間ほどまとまった時間が取れそうだ。とりあえずカレンダーには書き込んだ。

8月14日(日)

昨日の夜、ある文章を書きかけて1時間ぐらい頑張ったのだが、明らかに頭が疲れていてどうにもならないので、そのまま横になって朝まで眠った。10時間ほど眠っただろうか。それでも頭が疲れている感じが抜けず、イギリスに来てからは珍しいことだが、朝目覚めてから布団の中でゴロゴロし、9時すぎに起き出した。終日、宿舎で机に向かう。科研費の申請に向けた作業の続きや、日記を編集してブログにアップする作業など。

8月15日(月)

朝5:30頃から10:00まで、4件続けて科研費のメンバーとの研究打ち合わせ。

東京の大学で中央アジアの言語や文化、ロシア語を勉強している娘が、ウクライナからの避難民の支援ボランティアに参加するため、ポーランドに出発した。同じプログラムに一緒に参加する札幌出身の大学生とともに写真入りで紹介する記事が、北海道新聞に出た。貴重な機会であることは本人が一番よく分かっていると思うが、安全と健康には気をつけてしっかり学んできてほしい。

8月16日(火)

朝5:00から10:00まで、4件連続で科研費の研究分担者との打ち合わせ。早朝からのオンライン打ち合わせが続いていて、さすがに疲労が蓄積している。終了後、朝食を食べて気を取り直して大学に。

研究組織(分担者の参画依頼)のめどはほぼついたので、とにかく申請書を書き進めないとまずい。全体の構成とか細部の表記などの、大きな話や逆に細かい話は忘れて、ともかく集中力が続くところまで、パソコンにかじりついてひたすら文章を書くことに。途中、おやつ休憩を挟んで16:30過ぎまでやったところで限界になったので、もう一つ別の、これはこれで重たい案件の資料作成を進める。

8月17日(水)

研究室スタッフとの定例ミーティングの後、12:00-14:00にオンラインで、シノドストークラウンジ「啓蒙の限界プロジェクト」にゲストとして登壇。北海道大学橋本努さんのコーディネートで「気候民主主義――温暖化を阻止する市民会議の作り方」と題して『気候民主主義』について紹介し、その後、ディスカッション。ミニ・パブリックスの弱点について指摘するコメントなどもあり、改めて貴重な宿題を頂いた感じ。終了後、翌日から始まる国立国会図書館の科学技術に関する調査プロジェクトのオンライン研究会の予習。これは自分が代表・編者なので、遅刻するわけにはいかない。18:30には研究室を出て、スーパーで買い物して帰る。21:30頃就寝。

8月18日(木)

6:20出勤。7:00-9:00、国立国会図書館の調査プロジェクト「科学技術のリスクコミュニケーション」の研究会、第1回。分担執筆者から担当章に関する報告を頂き、それぞれについて質疑と意見交換。お二人の分担執筆者による充実した報告と、スタッフのKrさんのいつも通りの周到な準備により、大きな問題もなく無事に終えることができた。その後、明日、午前中にオンラインで行うプレゼンの準備の続き。

8月19日(金)

昨夜はプレゼンの準備が意外にも夕方までには済んで、19時頃には帰宅できて、夕食も20時ごろには終わって、ほんの一瞬、ホッとする時間が取れた。ホッとしている場合でもないのだが、つかの間、息抜きにネットで昔のドラマ(「半沢直樹」など笑)をダラダラ見たりした。朝4時頃に目が覚めた時、不思議と頭がだいぶスッキリしていた。よくわからないが、ストーリーのあるものをボーッとしながら見たのが効果的だったのではないか、と思う。科研費のメンバーとの打ち合わせが早朝に詰まっていた今週の月曜日・火曜日あたりは、頭にずっと もやがかかったような状態で、あれは本当にまずい状態だった。今回はスケジュール的に必要だったし、短期間だったから良いけれど、これを何週間も続けると本当に壊れてしまう。気をつけないといけない。

午前中のプレゼンは幸い無事に終わった。

8月20日(土)

科研費の書類を始めとして仕事は溜まっている。26日からのハイランド旅行はまだ手配していないが、できれば何とか行きたいので、宿舎にこもって仕事を片付ける。科研費の申請の他にも、環境社会学の講座本の編者の仕事や、その他、溜まっているメールへの対応など。

全国高校生異分野融合型研究プログラム(IHRP)のボランティアで以前コメントを担当したプロポーザルを、その後をフォローできておらず、1カ月ほど放ったらかしにしてしまっていたのが気になっていた。時間を作って、その後の状況を確認してSlackにコメントを書き込んだ。少しスッキリ。

8月21日(日)

終日、宿舎。月末が最終期限の科研費の申請書の先行きはまだ不透明だが、8月26日から行こうと考えているハイランド旅行は、このタイミングを逃すと、きっとチャンスはないだろう。それはあまりに惜しいので思い切って行くことに決め、鉄道とバス、宿泊先を予約した。今回もレンタカーは使わず、公共交通機関と現地発のツアーを活用することにした。

26日(金)夕方にグラスゴーまで鉄道で移動して1泊。翌朝、長距離路線バスで出発し、スカイ島のポートリーまで7時間かけて移動。スカイ島で2泊。その後、再び長距離路線バスでインバネスに移動し、そこでまた2泊して、ネス湖インバネスを見て、最後は31日(水)に鉄道で帰ってくる。ただでさえ8月というハイシーズンに、コロナ後の観光需要の高まり、それに円安のトリプルパンチで、ホテル代が高いのがつらいが、どうにか旅程を組むことができた。科研費の申請も綱渡りなら、旅行も綱渡りだ。

【NC日記】第10週:2022年8月1日〜7日

8月1日(月)

7月上旬にロンドンで行われた日本人研究者の交流会で知り合った、在英の社会学者Sさんの紹介で、イギリス留学やイギリスでの研究に関心のある日本の社会学系の研究者のオンライン情報交換会に参加。その後、スタッフのKrさんとオンラインで科研費の申請書作成に向けた打ち合わせ。研究分担者のリクルートは先週末からぼちぼち始めているが、研究計画の輪郭はまだぼんやりしている。やるべきテーマはそれなりにはっきりしているのだが、どんなチームで、具体的にどんな方法で、どのような予算配分だったらそれはできるのか。計画は所詮計画なので、実際に動き始めたら修正を繰り返すことになるのだけれど、少なくとも計画のレベルで「これならできそう」というストーリーがどうやって作れるのかの模索が続く。

8月2日(火)

大学院ゼミ。バーガー&ルックマン『現実の社会的構成』は第3部に入った。今日は1、2章を読む。あと1回を残すのみ。午後、ロンドンにいるYさんとZoomで情報交換など。科研費の申請は目立った進展なし。今日も天気が良いので、夕方、キャンパスの周りを散歩。

Castle Leazes(大学のすぐ隣の共有地)

8月3日(水)

朝、定例ミーティング。その後、先日の環境政策対話研究所・IGESのセミナーを聞いてくださった知り合いの研究者の方と、関連する話題についてオンラインで情報交換。

8月4日(木)

朝7時からオンラインミーティング。副指導を担当している修士論文について、経過報告を聞いてディスカッション。その後、間をおかずに気候市民会議関係でオンライン打ち合わせ。

先月のヨークとハドリアヌスの長城に続く、旅行シリーズ?の第3弾として、午後から仕事を抱えつつ湖水地方に行く。ハドリアヌスの長城に行くときに使った、タイン川沿いの鉄道にまた乗って、今度は終点のカーライルまで1時間半。そこで、ロンドンとグラスゴーを結ぶ幹線であるウエスト・コースト本線に乗り換えて南に1時間ほど行った、Oxenholme Lake Districtという駅で、湖水地方行きの支線に乗り換える。

午後遅く支線のホームに着いて、湖水地方のやや古びた看板を見ていたら、小田原駅で箱根湯本行きの電車に乗り換える所を思い出した。オクセンホルム自体は小さな村なので、小田原とはちょっと違うけれど、湖水地方もイギリスを代表する国立公園で、その入り口ということでは、連想としてそう間違ってはいないだろう。ウィンダミア駅近くにあるゲストハウスにチェックイン。その後、ウィンダミア湖畔まで15分ほどかけて歩いて行く。湖畔のパブで夕食して路線バスで帰る。

8月5日(金)

湖水地方は、一番大きなウィンダミア湖(Windermere)と、アルズ湖(Ullswater)、ダーヴェント湖(Derwent Water)、グラスミア湖(Glasmere)など16の湖と、500以上とも言われる多数の池が広範囲に点在している。イングランドに10ある国立公園の中で最大の面積だそうで、「文化的景観」として世界遺産にも登録されている。

路線バスで回ることもできなくはないけれど、それも大変そうなので、湖めぐりのツアーに参加することにした。レンタカーを借りて回れば時間に縛られず、新型コロナ感染の心配もなく手軽なのだが、イギリスで出回っているレンタカーはマニュアル車が中心だとか(マニュアル車は28年前に免許をとって以来、ほとんど運転していない)、契約や支払いでトラブルが多いという記事をネットで読みかじったりしたために、なんとなく億劫で、今回の滞在ではまだレンタカーを使用していない。国際運転免許証は、出発直前の慌ただしい中、警察署に行って発行してもらって持って来てはいるのだが。

自分で回るのと違い、ガイドもしてもらえるのもありがたいということで、今回はレンタカーは使わず、今日は日中、湖水地方の主な名所に連れて行ってもらえるツアーに参加することにした。

こんなミニバスで湖水地方の名所を巡る

アルズ湖に向かう途中の峠からの眺め(湖はたしかブラザーズ湖?)

ハイランド牛(Highland Cattle)

アルズ湖のほとりを散策

約4500年前に建てられたというキャッスルリッグ・ストーンサークル(Castlerigg Stone Circle)

絶景スポット「サプライズ・ビュー」からのダーヴェント湖の眺め

天然のスレート(粘板岩)の採石場(Honister Slate Mine)

湖水地方を愛したロマン派の詩人、ウィリアム・ワーズワース(1770-1850)の元住居

ワーズワースの眠る墓地がある教会(写真上。お墓は右手の茂みの後ろの方に)と、近くにある「水仙(The Daffodils)」の詩碑

8月6日(土)

昨日は昼間、ツアーで効率よく湖水地方の良い所を絞って見せてもらえて良かった。ただ、1日バスに乗っていてくたびれたし、このところ仕事しながら旅もしていて、デスクワークも溜まり気味で、締め切りが近づいている科研費申請のこともじっくり考えたい。今日は土曜日だし、あくせくせずにゲストハウスの周辺で過ごすことに決めた。

ゲストハウスの前のアジサイがきれい

ボリュームたっぷり、ゲストハウスの朝ごはん

朝食の後、部屋に戻って仕事。1時間半ほどで集中が切れてきたので、ゲストハウスのすぐ近くにある標高239メートルの丘、オレスト・ヘッドに出かける。20分ぐらいで手軽に登れるけれど、頂上からの見晴らしは感動間違いなし、とガイドブックにあったので、今日の散歩にはちょうど良さそう。

こんな感じのなだらかなフットパスを20分ほど歩く

オレスト・ヘッドからの360度のパノラマ(湖はウィンダミア湖)

期待通りの素晴らしい景色だった。森の中を歩いて、だいぶリフレッシュした。ゲストハウスに帰って仕事の続き。

昼食に出たついでに町の中にある金物屋に入ったところ、部屋用のアルコール式の簡易な温度計を見つけた。本当はデジタル式のものがあると良いなと思っていたが、アルコール式のものでもあれば助かる。迷わず購入。

部屋に戻ってから、夕方まで集中して作業して、論文の審査や原稿のチェックなど、溜まっていた仕事はだいぶ片付いた。

8月7日(日)

湖水地方にまだ名残惜しさはあるが、週明けから再び忙しくなりそうなので、今日は早めに帰ることに決めていた。ゲストハウスでの朝食の後、荷物をまとめ、オーナーにお礼の挨拶をして精算を済ませ、駅へ向かう。

駅に着くのが早すぎて、列車まで1時間弱空いてしまった。昨日、夕方までかかって終わらなかった審査コメントの仕上げをしつつ、11:39発の列車を待つ。その合間に何気なく入った駅前のホームセンター(別荘地なのでこういう店があるわけだ)で、デジタル式の温度計をついに見つけた。ドイツ製で少し値が張るが、時計やタイマーもついていて便利そうだし、長く使えそうなので思い切って購入。というわけで、温度計二つが今回の旅のお土産。

来た道を戻る形で、ウィンダミアからオクセンホルムに出て、ウエスト・コースト本線でカーライルまで。夏休み中の日曜日らしく、駅も列車もよく混んでいた。カーライルで乗り換えて、ニューカッスルまではまた山の中のローカル線で1時間半ほど。15:30頃、ニューカッスルの駅に帰り着いた。天気が良くてとても気持ちが良いのと、早めに帰り着いてまだ元気が残っているので、駅から宿舎まで初めて歩いて帰る。ゆっくり歩いて約30分。荷物をざっと片付けて、スーパーで食材の買い出し。17:00頃戻って、科研費の書類の続き。1時間半ほどで、申請書の元になるメモが完成した。

月曜日からは科研費の申請準備がいよいよ本格化する。研究分担者、協力者をお願いしている方々との、基本的には個別の打ち合わせが来週中頃まで、約20件続く。その合間に来週は、この夏、数回に分けて巡ろうと考えているスコットランド行きの第一弾にも出かける。

【NC日記】第9週:2022年7月25日〜31日

7月25日(月)

朝7時に研究室へ。8時(日本時間16時)からのオンラインセミナー「欧州の気候市民会議の最新動向と日本の学び」(主催:環境政策対話研究所、共催:地球環境戦略研究機関)に向けてスタンバイ。セミナーでは「気候民主主義とは何か? 欧州におけるその展開」と題して15分の講演をした。私、甲斐沼さん、森さんの講演の後、3人のコメンテーターからのコメントがあり、その後、柳下さんの進行でディスカッション。参加者は時間帯によって増減があったが、150人ぐらいの参加があったようで、質疑応答も非常に活発だった。気候市民会議に対する関心が続いていることを感じた。

当日の資料や録画は以下のリンク(環境政策対話研究所ウェブサイト)から。

https://inst-dep.com/info/2022-08

7月26日(火)

今朝も6時半に研究室に。朝7時から、研究プロジェクトのミーティング、大学院の講義(前回に続き同時配信。今日が最終回)、大学院ゼミと、ほぼ3連続でオンライン。13時に終了。こんな日は、終わった時にはくたくたになってしまい、ほとんど何もする気力が残っていないことが多い。とりあえず昼食を食べて、研究室に戻ってきてから気を取り直して科研費の申請のことを考える。2017年以来、進めてきたミニ・パブリックス、気候市民会議についての一連の共同研究を発展させるために、どんなメンバーで何をすべきか、どんな性格の共同研究にすべきかという大枠を考える作業。色々とメモは出来上がっていくが、まだ骨子はまとまらず。

前日、前々日と朝早くからオンラインでの対応が続いたので、今日は早めに(と言っても18時前頃だが)に切り上げる。一昨日作ったカレーが残っているので、晩ご飯はそれで手早く済ませ、19:00頃から散歩に出かける。この夏の日の長さを生かさないともったいないという気分が日に日に強まり、ともかく今日は気分転換も兼ねて外に行こうと考えた。このところずっと天気が良く、夏至から1カ月経ったとはいっても、午後7時はまだ明るい。

宿舎前の幹線道路の下をくぐって北の方に進み、公園の中をしばらく歩くと、タウン・ムーア(Town Moor)という共有地に出る。400haもあるというだだっ広い土地。牛などが放牧されていたり、スポーツイベントなどにも使われたりすることもあるらしい。同じようなMoorが、もっとキャンパスに近いものも合わせて、この周りに他にもいくつかある。

タウン・ムーア(Town Moor)

タウン・ムーアの入り口にある看板。3月〜11月には家畜が放牧されると書かれている

上の写真の "Freemen" がよくわからないのだが、Freemen(フリーメン)とはイギリス近世の都市を構成する主要な構成員として、さまざまな経済的・政治的・福祉的特権を与えられたエリートであった、らしい*1。近代以降、実質的な特権が廃止された後も制度は残り続け、ニューカッスルにもいまだにFreemenの称号があるらしい。市のウェブサイトには "Hereditary Freemen" についての説明があり、「世襲制フリーマンの子は、20歳になると、市長から(世襲制フリーマンの)宣誓就任をする資格を与えられる」とのこと。

このフリーメンもそうだが、ほぼ毎日初めて聞く単語や表現に出くわす。散歩の途中で家庭菜園も見かけたのだけれど、イギリス英語ではallotmentという言い方をするらしい。これも初めて知った。地図でallotmentと書かれていたのを見た時は、何か区画に分けられている土地だろうという想像はできたけれど、家庭菜園だとはわからなかった。

散歩の途中で見つけたAllotments(家庭菜園)

7月27日(水)

朝、定例のミーティングの後、昨日に続いて脱炭素化技術ELSIプロジェクトのミーティング。今年度行うテクノロジーアセスメントの第2ラウンドで取り上げるテーマについて、大まかな方針が固まった。その後は、午後に予定しているスティーブンとの打ち合わせの準備、そして15:00から打ち合わせ。翌週からスティーブンが2週間ほど夏休みに入るということで、当面の研究の進め方について相談した。一旦宿舎に帰って家事などを済ませてから、大学の前のパブでスティーブンと待ち合わせ、街中のインド料理店で一緒に夕食。

7月28日(木)

全学公開講座「コロナ時代の新常識」の最終回、ナッジ政策に関する橋本努先生の講演。質疑応答の進行を担当するためオンラインで参加した。

研究室から参加すべく、いつも通りノートパソコンをWifiで接続して準備をするのだが、回線がかなり遅いことに気づく。今までも何となく感じてはいたが、有線でネットワークにつながっている大学のデスクトップのパソコンで回線速度を測ってみると、こちらは桁違いに速いことがわかった。諸々の作業には、自分のノートの方が便利なのでそちらを使っているのだが、オンライン会議の時には有線でつながっているパソコンを使う方がいいのかもしれない。というわけで、本番1時間前に、大急ぎで大学近くのショッピングセンターに駆け込んで、デスクトップで使用できるウェブカメラを購入。10:30(日本時間18:30)からの本番に間に合った。開始前にそんなハプニングもあったが、公開講座自体は、橋本先生の興味深いお話と、活発な質疑応答で、無事に終了した。

7月29日(金)

今日は早朝に仕事を済ませ、午前中から日帰りで小旅行へ。ローマ帝国五賢帝の一人、ハドリアヌス帝(在位AD117-138)が、北方の警備のために造らせた「ハドリアヌスの長城」の遺跡がニューカッスルの近くにある(世界遺産である)。これは一度、見に行きたいと思っていた。

長城自体は、東は現在のニューカッスルのあたりから、西はアイリッシュ海沿いの現在のカーライルまで117キロにわたっていた。約6-7キロの間隔で、500-1000人の兵士が詰める要塞も設けられていた。風雨による損傷や、建材などとして持ち去られたりで、往時の姿はとどめていないが、壁の遺構は今でも所々にあり、いくつかの要塞は発掘がなされて遺跡が見学できるようになっている。

いつもの中央駅から、タイン川に沿って山の中を走る列車で西へ向かう。1時間ほどでHaltwhistle駅まで行き、ここからバスで、まずはRoman Army Museumへ。じつは大学博物館にもハドリアヌスの長城に関する展示があり、前日の昼休みに行って、少し予習していたのだが、こちらはハドリアヌスの長城やローマ軍のことに特化した博物館であり、さらにわかりやすい。軍の組織や、長城の構造、兵士の仕事や生活などがとてもよくわかった。ハドリアヌス帝についての展示は、辺境のブリテン島を含めて、帝国の各地を視察して回った「旅する皇帝」だったこと、複雑な性格の持ち主だったことなど、本などで読んだことのある話が中心だったが、要点が整理されていて参考になった。

Roman Army Museum

博物館見学の後、昼過ぎの路線バスに乗って、主要な遺跡の一つであるHousesteads Roman Fortに行こうとしたのだが、どうやらダイヤが変更になっているらしく、14:00頃まで博物館で足止め。あわててもしょうがないので、カフェでのんびり。ようやく来たバスに乗って、Housesteads Roman Fortへ。

要塞の遺跡(Housesteads Roman Fort)

全体では数百メートル四方のサイズがある要塞が発掘され、その中にあった、本部棟や兵舎、倉庫、病院、門などの建築物の遺構が、こんなふうに見学できる。

要塞からは、下の写真のように壁が伸びている。今はこんな姿であるが、完成時は4-5メートルの高さがあったとのことだから、当時はもっとそびえ立つような感じのものがここに建っていたことになる。

ハドリアヌスの長城(Hadrian's Wall)

要塞の西側には、一部、壁の上を歩けるようになっているところがあるので、行って壁の上を歩いてみた。

一部、長城の上を歩くことができるようになっている(写真の右側)

数百メートルぐらい進むと「遺跡保存のため立ち入り禁止」との標識が現れる。その先も、見渡す限りの荒野(moor)に長城が続いていくという景色。

この先、立ち入り禁止(壁の上でなければ問題ない様子だが)

帰りのバスの時間も気になるので、ここで記念撮影をして引き返す。立ち入り禁止の札のすぐ隣りには、フットパスの入り口があり、壁の上でなければ入っても問題ないようだった。

フットパスの入り口

このHousesteadsに限らず、ハドリアヌスの長城に沿って長いフットパス(自然歩道)が整備されていて、ハイキングを楽しむ人の姿も多くみられた。遺跡やフットパスの維持管理などはNational TrustやEnglish Heritageといった保護団体によって担われているようである。行く先々に、これらの団体の看板やパンフレットが置かれていて、各団体のユニフォームを着た案内スタッフがいた。自然に親しみつつ、歴史遺産にも触れるという組み合わせがイギリスらしい。

Housesteads Roman Fortの案内図。右下にEnglish HeritageとNational Trustのロゴマークが入っている

駐車場から要塞の遺跡に向かうフットパス(2点とも)

要塞の門をモチーフにした、アート作品(期間限定)

Housestaeds遺跡の中には、期間限定でこんなアート作品も展示されていた。要塞の東西南北にあった門をモチーフとした作品で、中は展望台にもなっている。2世紀に造られた要塞は軍事施設だったのだけれど、今もし、門を作るとしたらどんな意味を込めたいかが表現されているように思った(それを表現したキーワードが表面に散りばめられている)。やや場違いな感じもしたけれど、伝わってくるものはあった。

バスの時刻表変更によってRoman Army Museumで2時間ロスした影響で、今日もう1カ所訪れようと思っていたChesters Roman Fort & Museumに寄る時間はなくなってしまった。バスでChestersの前を素通りして、Hexham駅へ。

Hexhamからニューカッスルは行きにも通ったルートを引き返す列車の旅。タイン川沿いの夏の景色が美しい。

夕方、ニューカッスル中央駅に着いてから、やっておきたいことがあった。手元の『地球の歩き方』に、ニューカッスルの中心部にも「ハドリアヌスの城壁の一部」が残っているとの情報があったので、訪れておこうと思ったのである。

駅のすぐ裏手に「それ」はあった。

ハドリアヌスの城壁の一部?

行ってみてわかったのは、これはハドリアヌスの長城ではなく、中世になってこの町がニューカッスルと呼ばれるようになってから造られた城壁である、ということだった。1960年代に修復作業がなされて、このように保存されているのだという。同じような城壁が、ここから歩いて10分ほどの中華街の隣にも残っている。

旅行ガイドブックは情報をコンパクトにまとめてくれていて本当に助かるが、時にこうした間違いもある。今回は、情報が間違っていたからといって損害があったわけでもなく、その範囲では、こんな発見も旅の楽しみのうちかもしれない。

ニューカッスルハドリアヌスの長城の東の終点だった、という話自体は間違いではない(大学博物館のジオラマでも、Roman Army Museumのパネルでもそう説明されていた)。その東端は、市の中心部からメトロで10分ほどタイン川沿いにさらに東に、つまりは海の方へ行ったところ。その名もWallsendという駅の近くにあり、ここは遺跡になっている(Segedunum Roman Fort & Museum)。

ハドリアヌスの長城はそのWallsendで終わるのだが、そのさらに先、タイン川が北海に注ぐSouth Sheildsの町にもArbeiaというローマの要塞があった。ここもHousesteadsと同様に発掘されて見学できるようになっている。しかも要塞の門が一つ、復元されているという。WallsendとSouth Shieldsは明日の昼前から時間がありそうなので、行ってみることにしよう。

ちなみに、下の写真はニューカッスルの中央駅のホームにあった掲示。このところ鉄道職員のストライキが時々あって、今週も水曜日に一度あり、明日土曜日にも予定されている。もともとこの週末は1泊で出かけることも考えていたのだが、日帰り旅行に切り替えたのだった。

鉄道職員のストライキに関する駅の掲示

7月30日(土)

朝、OECDレポートの翻訳プロジェクトのオンラインミーティングに参加した後、昼前からローマ帝国の遺跡めぐり2日目に出かける。メトロに乗って黄色い線の終点のSouth Shieldsへ。駅から15分ほど歩いた海の近くに、ローマの要塞跡がある。昨日見学したHousesteadsは復元されてはいなかったのだが、ここでは門の一つと、一部の建物が復元されている。

要塞の構造や、そこにいた軍隊の組織などは同じであり、違う場所で同じものを改めて見学をすることで、理解が深まった。

South Shieldsの要塞遺跡 Arbeia

このArbeia遺跡の発掘は19世紀から盛んに行われてきたとのこと。復元された門は本当に見事であった。塩野七生氏が『ローマ人の物語』の中で、ローマの遺跡の維持・管理は、イタリアにあるものも含めてすべてイギリス人に任せた方がいいと書いていたけれど、この2日間の見学を通じて、なんとなくその話もわかるような気がした。どこの遺跡・施設も派手さはないものの、丁寧に保存や復元、展示がなされていた。

伝統的にローマ学が盛んなのがイギリスである。しかも「防壁」は、彼らにとっては自国内にある重要なローマの遺跡だ。それでここも徹底して調査され、遺跡の保存にも配慮が行きとどき、そのうえ遺跡観光の客目当ての小ぎれいな旅宿も「防壁」ぞいにあるという具合で、初夏から初秋にかけての週末旅行には恰好の場所になっている。それでいて俗っぽさが目立たないのは、いかにもイギリスらしくて嬉しい。ローマ時代の遺跡の管理はイタリア内にあるものでもイギリス人にまかせるべきだとは私の持論だが、質でも量でもイタリアに断じて劣るのが、ブリタニアにあるローマ時代の遺跡や彫像である。大英博物館でさえも、例外ではない。それなのにローマ時代の遺物に向けられる英国人の細心の配慮は、ただ単に古代ローマへの愛か。それとも、古代のローマ人を継承したのは自分たち大英帝国の民だ、という気概の名残りか。(塩野 七生『賢帝の世紀──ローマ人の物語[電子版]IX』新潮社) 

Wallsendも見に行こうと思ったが、South Shielsでゆっくりしすぎて、時間が足りなくなってしまった。タイン川を渡るフェリーで対岸に行き、メトロに乗りWallsendは素通りして帰る。これは近所なので、また出直すことにしよう。

7月31日(日)

終日、宿舎で過ごす。朝、オンライン読書会に参加。アンドレイ・クルコフの『ウクライナ日記』。ユーロマイダンの運動に対する評価の難しさ、著者の微妙なスタンスなどが主な議論に。自分としては十分に読み込めていなかったところでもあり、参考になった。日記だということもあって、随所に現れる食に関する描写について注目した話もあり、これも面白かった。

私が話題にしたのは「ロシア語で書くウクライナの作家」である多言語作家としての作者のスタンス。運動に対して完全に同一化しない一方で、多文化主義や自由、基本的人権の尊重、暴力への批判などが一貫しており、その点に共感しながら読むことができたと思う。以前の日記に書いた、同じ著者の『ペンギンの憂鬱』の読後感も紹介した。

午後は家族と電話で話すなど。科研費の申請は、骨格のたたき台がようやくできあがった。

*1:小西恵美「近世イギリス都市におけるフリーメン制度の意義:キングス・リン1635-1836年」『三田商学研究』48 (5): 91-111, 2005年、https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282812367438976

【NC日記】第8週:2022年7月18日〜24日

7月18日(月)

日本では海の日で祝日だが、こちらでは平日。とはいえ、大学は完全に夏休みモードで、政治学のフロアもスタッフは数人しか出勤していない状態が続いているので、閑散としていることには変わりはないのだが。このフロアで、平日毎日研究室に来ているのは自分ぐらい。その他、昼間はロビーや空き会議室でパソコンに向かって熱心に仕事をしている学生が、いつも3〜4人程度いる。修士論文を執筆中の学生らしい。仕組みが十分理解できていないところがあるのだが、こちらの修士は、9月にスタートして1年間のプログラムなので、修士論文を本格的にまとめるのは、6月に授業が終わった後のこの時期になるとのこと。

今日と明日は、南部を中心に全国的に記録的な熱波になるという警報が、先週から繰り返されていた。朝のBBCのニュースはこの件がトップニュースで、キャスターが中継で外から天気予報を伝えたり熱波に備える人びとの動きをリポートしたり、挙句の果てには気候変動の専門家まで登場して、冒頭20分間はこのニュースを伝えていた。宿舎のキッチンでいつも通りトーストやハム、野菜などの朝食をとるが、7時前でもすでにかなり蒸し暑く、暑さで食欲が出ない。

7月18日(月)朝の天気予報

イギリスでは一般的な家庭やオフィスにはエアコンがない。その中で今日明日は35℃とか40℃、という気温になるかもしれないということで、日本での同様の気温とはまた違った危うさがある。自分の場合、日本で鍛えられているとはいえ、エアコンが使えないという環境の中で果たして二日間乗り切れるのか、やや不安になる。間違っても熱中症などにならないように注意しなければ、と気を引き締める。

そのうちテレビからは、熱波の中での過ごし方の注意が流れてきた。水分補給をこまめにとか、不要不急の外での活動は避けましょうとか、日本でよく言われることとほとんど同じなのだが、一つだけ「おや?」と思う内容があった。

曰く「日中はカーテンや日除けを閉じて、窓も閉めなさい」。

窓を閉める?? 窓を開けて風通しを良くする、の間違いでは?

と思ったのだが、そうではなかった。話を聞いてみると、こういうことだ。

この記事にあるように、朝の気温が低いうちに窓やドアを開け、風通しをして冷たい空気を部屋の中に入れておく。そして気温が上がってくる前に、ドアや窓を閉じ、ブラインドやカーテンも閉じなさい、という話だった。部屋の中よりも外の方が蒸し暑いのに窓を開けておいたら、暑い空気が入ってくるだけで、室温は上がる一方である。考えてみれば当たり前のことだ。

日本の夏でも、朝の涼しいうちは窓を開けて風通しをし、冷たい空気を入れるというところまでは同じだ(とはいえ、とくに本州以南では「朝の涼しいうち」という時間帯が無い日も増えていて、そんなときは1日24時間エアコンをつけっぱなしにすることも少なくないと思う)。しかし、部屋の中よりも外の方が暑くなってきたら、あとは気温が上がる一方なので、さっさと窓を閉めてエアコンをかけてしまう。札幌でもここ10年ぐらい、真夏の少なくとも2〜3週間ぐらいはそんな日が多いと思う。だから、外が暑くなってきた後、エアコンがない場合、どうするかについてはよく知らなかった(または忘れていた?)のである。

熱波の二日間の初日の朝に、このことに気づいてよかった。もっとも最初は半信半疑のままだったのだが、とにかく朝8時からのオンライン打ち合わせの前に研究室に行き、すでに外はかなり暑かったので、BBCニュースのアドバイスを信じて、窓もブラインドも閉めて1日過ごした。私のいる研究棟は、10階建て*1の大きな建物なので、窓際の研究室はともかく、ロビーや階段をはじめとして、内側に冷たい空気をかなり溜め込んでいるようで、日中も適宜、ドアを開けておけば、快適とはいかないまでもどうにか過ごすことができた。

宿舎は出かける前に窓もカーテンとブラインドも閉めていったが、帰ってみるとかなり蒸し暑く、網戸もないので窓も開けづらく、夜はかなり寝苦しかった。

お隣のBさんがしばらく留守にしているらしいことに、先週末頃から気づき始めたのだが、夕方、帰ってきた。イギリス南部を車で8日間、旅してきたとのこと。すごく楽しかったみたい。

今日の気温はロンドンは37℃、ニューカッスルでも32℃まで上がったようだ。

7月19日(火)

熱波の二日目。昨日よりも気温が上がるとの予報。朝8:30(日本時間16:30)から大学院の科学技術社会論の授業。この授業は今学期はほとんどオンデマンドで進めてきたが、最終回の一つ前の今週と、最終回の来週は、期末レポートに向けたプレゼンをしてもらうためZoomを使って同時配信で行う。

終了後、今度は2時間、大学院のゼミがある予定だったのだが、都合により中止に。例の書類作成の作業が遅れているので、時間的には助かった。この暑さの中で書類作業の続きをするのが、なかなか精神的に堪えるが、窓もブラインドも締め切って、黙々と作業を続ける。

合間に、水をくみにロビーに出たら、並びの研究室で出勤しているジェームズさんに声をかけられ、ちょっと雑談。お話しするのは初めてだと思うが、「この夏の旅行の予定とかは?」という話になり、出身のスコットランドのオススメなどを聞く。2年間の延期の果てに、諸々やりくりしてどうにかイギリスへやって来て、とくに最初の1カ月は、抱えて来た仕事をこなすのに精一杯で、旅行のことなど全く考える余裕がなかった。そもそも、ニューカッスルに滞在していること自体が、自分にとっては立派な旅行なわけだし。だが、お隣のBさんも8日間も旅行して来たというし、可能な範囲で、こちらにいる間に色々と見て回らないともったいないという気がしてきた。

とはいえ、まずは目先の書類作成である。ゼミがなくなった時間を生かして作業を進め、夕方までに一通り埋めた。あとは明日、一からチェックと推敲をすればよいぐらいのところまで到達した。延ばしてもらった締め切りは木曜日の午後なのだが、今度こそは遅れるわけにいかないので、明日には終わらせたい。まだ完了していないが、何とか目処はついた。熱波の二日間をエアコンなしで乗り切ったということもあり(この種の言い訳が多いのが見苦しい(笑))、夕方、手前の方のパブでビールを飲んでから帰宅。

今日の気温は、ニューカッスルは昨日よりは低く29℃。しかしロンドンは40℃まで上がったようだ。猛暑の二日間が終わった。

7月20日(水)

昨日までの暑さがうそのように涼しくなる。朝、いつもの2つの定例ミーティングの後、書類作成の続き。淡々と作業を進める。午後4時すぎに完成して送り終えた。一度、期限を延ばしてもらったがどうにか終わった。爽快感はないが、ホッと一息。帰りにショッピングモールの中のいつものスーパーで買い物して帰る。ハム1パック£3.50、オレンジジュース1リットル£1、炭酸水500ml6本入り£1.60、レモンチョコレートクッキー£1.85、レンジでチンするだけのハムタリアテッレ£3.10(超手抜きの晩ご飯)。締めて£11.05(¥1,863)。

7月21日(木)

朝イチで、国会図書館のリスコミ調査について、分担執筆者の一人と国会図書館の担当者を交えてオンラインで打ち合わせ。

午後、先週から一度お茶に行こうと約束していたソラナさんと、大学正面のAnyoneカフェへ。アイスラテを注文して外の席に座ったのだが、だいぶ涼しくて温かい飲み物でもよかったなという感じ。猛暑はホントに2日間だけだった。

7月22日(金)

朝8時(日本時間午後4時)から、昨年度から続いているヒグマとの共生に関する市民参加についてのプロジェクトの打ち合わせを、遠藤さんと池田さんと3人で。遠藤さんが準備してくれている報告書のドラフトを一緒に検討する作業で、お昼近くまでかかってしまった。午後は週明けの気候市民会議に関するオンラインセミナーでの講演準備をしなければいけないのだが、午後は集中力が続かず。先週から続いてきた書類づくりと、今週前半の熱波とで、かなり消耗した感じ。早めに切り上げて休むことに。

7月23日(土)

今週はいくつかの刺激をきっかけに、できる時にはなるべくあちこち見て回らなければもったいないという思いが強まった。それで早速、週末は以前から一度行ってみると良いよと複数の人に勧められていたヨークへ。ニューカッスルから南へ鉄道で1時間ほど。ローマ時代からの古都で、中世に作られた城壁がよく保存されている。英国を代表する大聖堂の一つとも言われるヨーク・ミンスターも見どころ。朝早く出発して10時すぎには現地に着き、昼の間に市内をたっぷり歩いて堪能した。

城壁にはBarと呼ばれる門が6つあり、そこから旧市街に出入りする

城壁の上を歩くことができる

13世紀に城の見張り台として建てられたClifford's Tower

大聖堂 York Minster

大聖堂の内部

城壁から大聖堂を望む

7月24日(日)

ヨークには1泊した。夜はホテルで読書や勉強をできればと思って、本や勉強道具も持って来ていたのだが、先週の疲れが出たようで、ろくに勉強せずに眠ってしまった。朝早めに起き出して、翌日のセミナーの準備。駅の反対側にある国立鉄道博物館にも行きたかったのだが、昨日、城壁とタワー、大聖堂をゆっくりと観て回ったら行く時間がなかった。また時間を見つけて今度は日帰りで来よう。

朝10時の列車でニューカッスルに帰った。

宿舎に着いてすぐに、日本にいる兄とオンラインでつないで、おそらく出発前のゴールデンウィークに実家で会って以来、2カ月半ぶりに話す。午後はIHRPのメンターのボランティア。研究計画を作成中の高校生の相談に乗った後、運営スタッフの皆さんとの会議。高校生へのサポートの仕方についても助言する。

その後、明日のセミナーの準備の続き。午後11時前(日本時間の25日早朝)には資料が出来上がり、メールで提出。明日の朝は8時(日本時間では16時)スタートなのですぐに就寝した。

*1:地上12階・地下1階の間違いでした。何だ全然違うじゃないか、と思われるかもしれませんが、イギリス式で言うと11th Floorまであるということはぼんやりと記憶していて、日本式に言えばそこで1足さなければならないところを、間違えて1引いていたということでした。今、私がいる階は4th Floorで、日本で言う5階です。これまでも間違えて4階と言っていたことがあるかもしれませんが。(2022.08.02追記)

【NC日記】第7週:2022年7月11日〜17日

7月11日(月)

朝、国会図書館の調査の件で分担執筆者とオンラインで打ち合わせ。午後、スティーブンと研究についての打ち合わせ。共著論文の執筆について話を進める。16時からGPS学部(School of Geography, Politics, and Sociology)のSummer Party。1カ月前にも学会懇親会で行ったWylam Breweryで。今日締め切りの報告書の原稿がまだ出せていないが、ビールを3杯飲んだので、今日はもうダメ。

7月12日(火)

朝から、先週に続き脱炭素化技術ELSIプロジェクトのテクノロジーアセスメントに関する研究打ち合わせ。学食で朝食の後、大学院ゼミ。『現実の社会的構成』の第2部第2章。片岡さんが執筆中の論考のドラフトも検討。その後、13:00から徳田太郎さんらVOICE and VOTEの皆さんが主催する、『気候民主主義』の6回連続の読書会の最終回にゲストとして出席。

7月13日(水)

午後、東京都杉並区で気候市民会議の実現に向けて取り組んでいる住民グループの方々と、オンラインで情報交換。欧州気候市民会議研究会の原稿はあと一息。

7月14日(木)

10月に日本から来る同僚二人と予定しているスタディツアーの計画を立てるため、3人でオンラインでミーティング。思いのほか時間がかかったが、スケジュールの大枠は決まり、宿も全ておさえることができた。今、ホテルも飛行機もとるのが大変なので、早めに動いて吉。その後、欧州気候市民会議研究会の報告書原稿を完成させて、3日遅れで提出。原稿が一つ終わったので(というのは口実だが)、大学の前に二つあるパブのうち、まだ行ったことがなかった方に行き、一杯飲んで帰る。

7月15日(金)

締め切りが近づいている某書類の作成作業。

7月16日(土)

その続き。単純作業の部分も多い仕事なのだが、内容的なことも相まって、それはそれで結構こたえる。イギリス渡航の直前や、その後1カ月ぐらいの間、かなり忙しかった間もほとんど欠かさなかった日記を、まともにつける気が起こらない状態。

こういう時の気分転換は読書に限る。今月末の読書会で読む『ウクライナ日記』の著者であるアンドレイ・クルコフの代表作、『ペンギンの憂鬱』(沼野恭子訳)を前々から読んでみたいと思っていたので、電子書籍で入手して読む。

7月17日(日)

また前日の続き。当初想定していた内部的な締め切りに間に合わなさそうなので、相談をし数日延ばしてもらう。

気分転換の『ペンギンの憂鬱』は、読み終わってしまった。訳者も解説で書いていたけれど、村上春樹の小説を思い出す雰囲気の作品だった。2004年に書かれたその解説では『羊をめぐる冒険』の名前が挙がっていたけれど、読みながら自分が思い出していたのは『1Q84』。『ペンギンの憂鬱』は、新聞社の依頼で架空の追悼記事を書く仕事をしていたライターが、知らないうちに恐ろしい事態に巻き込まれていく物語。自明のものと思って疑わないこの現実は、全く不確かなもので、もしかしたら別の現実がパラレルワールドみたいに存在しているかもしれない、といった感覚を刺激される話だった。

東日本大震災の後しばらくの間、全く荒唐無稽な話なのだけれど、3月11日14時46分を境に、世界が二つに枝分かれしていたら、というようなことを空想することがあった。自分たちは地震津波原発事故の「起こった」方の世界にいるのだが、それと並行して地震津波も、原発事故も「起こらなかった」世界が別にあり、そちらではこれまで通りの生活が営まれている。津波原発事故の衝撃が大きすぎて、そこから逃避するような感覚でそんな空想にふけっていたわけだが、もしかしたら、パラレルワールドが重要なモチーフだった『1Q84』を、前年に読んでいた影響が大きかったかもしれない。『ペンギンの憂鬱』を読みながら、11年前のそんな経験を思い出したりしていた。

明日から2日間、イギリス全土でものすごい熱波が来るらしい。ロンドンなど南部の方では40度を超すかもしれないという予報になっていて、ニューカッスルでも30度台半ばまで気温が上がりそう。宿舎も研究室もエアコンがないので、熱中症に要注意。

【NC日記】第6週:2022年7月4日〜7月10日

7月4日(月)

8:30頃、研究室へ。朝、宿舎から外に出たら、風が秋みたいだった。ニューカッスルの夏はもう終わってしまったのか? 今日最初の予定は朝9:00から(日本時間17:00から)の日本とのオンラインミーティング。8:00からと比べて、1時間違うだけで格段に余裕がある。

今日はほんの少しゆとりがあったので、夕方早めに切り上げて2週間前と同じ床屋で散髪し、その後、少し離れた隣駅の前のスーパーで買い物。午後には気温も上がってきて、また夏らしい感じになってきた。しかし、少々気温が高くてもたかが知れているし湿度も低いので快適。

7月5日(火)

朝、オンラインミーティング。埼玉県所沢市で準備が進んでいる気候市民会議について関係者にお話を聞かせていただき、情報交換。学食で少し遅めの朝食の後、11:00から大学院ゼミ。午後は研究の時間に。昨年秋から参加している欧州気候市民会議の研究会の報告書原稿の締め切りが、来週に迫っていて本腰を入れないといけない。5月末の研究会に提出した執筆構想案をもとに、書くべきこと、書けることを考える。

当たり前のことなのだが、日本が夜に入るこちらの正午頃から深夜まで、日本からほとんどメールが来なくなる。5月下旬にイギリスに来てから、早朝に日本とのやりとりをしなければならず、そのリズムになじむのに苦労してきたわけだが、その反面、昼頃から夕方までの時間帯に集中することに、最近、身体と心が慣れてきた。今日の昼休み、外を歩いている時、そのことをふと自覚した。早朝に集中できる時間がとれないことに焦っていた先週までと比べると、大きな心境の変化。

7月6日(水)

朝8時から研究室のスタッフとの定例ミーティングを2つ済ませ、10時すぎに研究室を出て中央駅へ。今日から1泊でロンドンへ出張。ロンドンへはこれまでも4回行ったことがあり、1週間近く滞在したこともあるが、今度の在外研究期間中、ロンドンに行くのはこれが初めて。ロンドンは2010年夏に最初に訪れて、その魅力にとりつかれて以来、自分にとっては最も憧れる都市で、ロンドンに行く、というだけでテンションが上がる。

ラッセルスクエア近くのホテルに荷物を預け、ユーストン駅の裏手にある日本学術振興会のロンドン事務所まで歩いていく。16:00から同事務所と在英日本人研究者会が主催する「英国サバイバルセミナー」に参加。イギリスでのアカデミックポストへの就職を考えている、日本出身の在英の大学院生や博士研究員の人たちが主な対象の催しだったようだが、私のように、日本の大学に所属しつつ在外研究で一時的に滞在している参加者もいた。ざっと40人ほどの人が集まり、大盛況。

私とほぼ同時期に、同じ国際共同研究のプログラムで英国内の別の大学に滞在しているHさんも参加していた。Hさんとは、ともに前回の渡航を取りやめることになる直前の2020年3月以来、2年ぶりの再会となった。

Imperial College Londonの高田正雄教授(Molecular Physiology in Critical Care)の講演も、その後、UCLの大沼信一教授(Ophthalmology=眼科学)ら4人の先生方によるパネルディスカッションも、各先生の長年の経験に裏打ちされた深みのある内容でありながら、お話が非常に具体的で、自分のように短期間イギリスで研究する者にとっても参考になることばかりだった。先生方がとくに強調していたのは、日本の研究者は控えめで、自分の仕事や考えをきちんと表現しない傾向があるので、イギリスで仕事をしていく上では、しっかり自己表現、主張をしっかりしていくことを心がけるべき、ということだった。

終了後には懇親会があり、分野の近い研究者と知り合ったり、セミナーでのアドバイスを早速生かしてちゃっかり『気候民主主義』をPRしたり、今後開かれる予定の在英日本人研究者会の交流会にも誘っていただいたりと、貴重なネットワーキングの機会となった。私にとっては、イギリス滞在の序盤で、なおかつ生活がだいたい落ち着いてきた、ちょうど良いタイミングでこうしたイベントに参加できたのは幸運だった。

7月7日(木)

ロンドン2日目。午前中はホテルの前にある公園で研究関係の打ち合わせ。

その間にニュース速報が入ってきた。火曜日にスナク財務相とジャヴィド保健相が辞表を出し、その後も閣僚の辞任が相次いで、退陣秒読みのような状況になっていたジョンソン首相が、ついに党首辞任を表明したという。

打ち合わせの後、帰りの列車まで時間があるので、2019年9月の滞在中に「気候ストライキ」の若者・子どもたちが集う様子を見に行ったトラファルガー広場を再訪。この2019年の集会の様子を撮った写真が、後に『気候民主主義』のカバーを飾ったのだった。本を取り出して2年10カ月前と同じ場所で記念撮影。

本と一緒に帰ってきたロンドン・トラファルガー広場

7月8日(金)

昨夜はロンドンから帰り、シャワーを浴びて荷物を片付けたりしているうちに、寝るのが12時頃になった。ところが午前4:26(日本時間12:26)に、日本にいる娘から「安倍元首相銃で撃たれて意識不明」とのメッセージが入っていたことに朝5時頃、気がつき、すぐに完全に目が覚めた。

BBCラジオの6時のニュースでも、ジョンソン首相辞任の件に続いて、準トップの扱いで報じられていた。朝7時から脱炭素化技術ELSIプロジェクトのオンラインミーティングがあり、その後も報告書原稿を進めなければいけないなど、今日はしっかり仕事をしなければならない1日だったのだが、事件のショックで、どうにも落ち着かない感じになってしまった。

7月9日(土)

気を取り直し、週末は宿舎にこもって、溜まっている勉強をまとめてすることに。報告書原稿の執筆を進めつつ、遅れている翻訳の作業も並行して行う。

2020年に出たOECDの報告書、Innovative Citizen Participation and New Democratic Institutions: Catching the Deliberative Wave を日本語訳して出版すべく、日本ミニ・パブリックス研究フォーラムの仲間と分担して翻訳を進めている。各章の翻訳原稿は一通り揃い、現在、お互いの翻訳を手分けしてチェックしているところ。私も2章分、チェックを受け持っているのだが、想像以上に時間がかかり、先週金曜日だった締め切りを1週間も過ぎてしまっている。

原文を短く区切って読み、訳文の対応箇所をチェックして、訳の間違いや訳し漏れ、日本語として読みづらところなどがないかを、ほぼ一文一文、照らし合わせながら確認していく。時間がかかり、根気のいる作業である。

少なくとも2度は通読した報告書を、部分的にとはいえ精読することになり、理解を深める良い機会である。とくに自分が今、関心を持っているミニ・パブリックスの制度化(institutionalisation)について取り上げた章と、全体のまとめとなる最後の章を担当しているため、理解を再確認する意義はとくに大きい。この報告書は、ミニ・パブリックスや民主主義のイノベーションの分野では、最近最も影響力のある文献である。一刻も早く、読みやすくて信頼できる日本語訳を出し、日本でも広く活用してもらえるようにしたいという思いを新たにした。

7月10日(日)

前日に引き続き宿舎で勉強。翻訳チェックは1章分が済んで、朝のうちに共訳者に共有した。その後、報告書原稿作成の続きに戻る。

午後、1時間ほど、先日に引き続き、オンラインで IHRP 全国高校生 異分野融合型研究プログラム のメンターとしてのボランティア活動。今日は、研究を進めている参加者の高校生から、研究計画づくりの過程で生じている疑問や悩みを聞き、もう一人のメンターの方と一緒にアドバイス。今年度の全体テーマは水問題。自分の専門に近い研究テーマばかりではないのだが、研究計画を組み立てる上で考慮すべきことについて、俯瞰的な視点からコメントするよう心がけた。高校生の反応は上々で、数日前にクラウド上で先に書き込んでいた研究計画書へのコメントと合わせて、それなりに役に立つアドバイスができたみたい。研究者として身につけてきたスキルを、若い人たちにこういう形で伝えることで貢献できるのはうれしい。

その後、最近、宿舎にいる日曜日の定番となりつつある近所のGreggsへ。買ってきたソーセージロール(「Greggsといえばこれ」という鉄板メニューらしい)と弁当を食べながら、宿舎のキッチンにあるテレビをつける。参議院議員選挙の開票速報は映らないらしい。日本では開票速報の裏番組?としてEテレで中継中の、テニスの全英オープン男子決勝戦ジョコビッチ vs キリオスをみる。

ジョコビッチ vs キリオスの決勝戦を見ながら昼食

その後、スーパーが閉まる前に食材の買い出し。外は夏らしい天気。宿舎で机に向かって勉強している時間が長い週末だったが、今週は半ばに1泊でロンドン往復を強行して疲れてもいたので、これぐらいがちょうど良かったかもしれない。