mikami lab.@名古屋大学 大学院環境学研究科 環境政策論講座

名古屋大学大学院環境学研究科 環境政策論講座の三上直之のサイトです。2023年10月に北海道大学から現所属に異動しました。

【NC日記】第6週:2022年7月4日〜7月10日

7月4日(月)

8:30頃、研究室へ。朝、宿舎から外に出たら、風が秋みたいだった。ニューカッスルの夏はもう終わってしまったのか? 今日最初の予定は朝9:00から(日本時間17:00から)の日本とのオンラインミーティング。8:00からと比べて、1時間違うだけで格段に余裕がある。

今日はほんの少しゆとりがあったので、夕方早めに切り上げて2週間前と同じ床屋で散髪し、その後、少し離れた隣駅の前のスーパーで買い物。午後には気温も上がってきて、また夏らしい感じになってきた。しかし、少々気温が高くてもたかが知れているし湿度も低いので快適。

7月5日(火)

朝、オンラインミーティング。埼玉県所沢市で準備が進んでいる気候市民会議について関係者にお話を聞かせていただき、情報交換。学食で少し遅めの朝食の後、11:00から大学院ゼミ。午後は研究の時間に。昨年秋から参加している欧州気候市民会議の研究会の報告書原稿の締め切りが、来週に迫っていて本腰を入れないといけない。5月末の研究会に提出した執筆構想案をもとに、書くべきこと、書けることを考える。

当たり前のことなのだが、日本が夜に入るこちらの正午頃から深夜まで、日本からほとんどメールが来なくなる。5月下旬にイギリスに来てから、早朝に日本とのやりとりをしなければならず、そのリズムになじむのに苦労してきたわけだが、その反面、昼頃から夕方までの時間帯に集中することに、最近、身体と心が慣れてきた。今日の昼休み、外を歩いている時、そのことをふと自覚した。早朝に集中できる時間がとれないことに焦っていた先週までと比べると、大きな心境の変化。

7月6日(水)

朝8時から研究室のスタッフとの定例ミーティングを2つ済ませ、10時すぎに研究室を出て中央駅へ。今日から1泊でロンドンへ出張。ロンドンへはこれまでも4回行ったことがあり、1週間近く滞在したこともあるが、今度の在外研究期間中、ロンドンに行くのはこれが初めて。ロンドンは2010年夏に最初に訪れて、その魅力にとりつかれて以来、自分にとっては最も憧れる都市で、ロンドンに行く、というだけでテンションが上がる。

ラッセルスクエア近くのホテルに荷物を預け、ユーストン駅の裏手にある日本学術振興会のロンドン事務所まで歩いていく。16:00から同事務所と在英日本人研究者会が主催する「英国サバイバルセミナー」に参加。イギリスでのアカデミックポストへの就職を考えている、日本出身の在英の大学院生や博士研究員の人たちが主な対象の催しだったようだが、私のように、日本の大学に所属しつつ在外研究で一時的に滞在している参加者もいた。ざっと40人ほどの人が集まり、大盛況。

私とほぼ同時期に、同じ国際共同研究のプログラムで英国内の別の大学に滞在しているHさんも参加していた。Hさんとは、ともに前回の渡航を取りやめることになる直前の2020年3月以来、2年ぶりの再会となった。

Imperial College Londonの高田正雄教授(Molecular Physiology in Critical Care)の講演も、その後、UCLの大沼信一教授(Ophthalmology=眼科学)ら4人の先生方によるパネルディスカッションも、各先生の長年の経験に裏打ちされた深みのある内容でありながら、お話が非常に具体的で、自分のように短期間イギリスで研究する者にとっても参考になることばかりだった。先生方がとくに強調していたのは、日本の研究者は控えめで、自分の仕事や考えをきちんと表現しない傾向があるので、イギリスで仕事をしていく上では、しっかり自己表現、主張をしっかりしていくことを心がけるべき、ということだった。

終了後には懇親会があり、分野の近い研究者と知り合ったり、セミナーでのアドバイスを早速生かしてちゃっかり『気候民主主義』をPRしたり、今後開かれる予定の在英日本人研究者会の交流会にも誘っていただいたりと、貴重なネットワーキングの機会となった。私にとっては、イギリス滞在の序盤で、なおかつ生活がだいたい落ち着いてきた、ちょうど良いタイミングでこうしたイベントに参加できたのは幸運だった。

7月7日(木)

ロンドン2日目。午前中はホテルの前にある公園で研究関係の打ち合わせ。

その間にニュース速報が入ってきた。火曜日にスナク財務相とジャヴィド保健相が辞表を出し、その後も閣僚の辞任が相次いで、退陣秒読みのような状況になっていたジョンソン首相が、ついに党首辞任を表明したという。

打ち合わせの後、帰りの列車まで時間があるので、2019年9月の滞在中に「気候ストライキ」の若者・子どもたちが集う様子を見に行ったトラファルガー広場を再訪。この2019年の集会の様子を撮った写真が、後に『気候民主主義』のカバーを飾ったのだった。本を取り出して2年10カ月前と同じ場所で記念撮影。

本と一緒に帰ってきたロンドン・トラファルガー広場

7月8日(金)

昨夜はロンドンから帰り、シャワーを浴びて荷物を片付けたりしているうちに、寝るのが12時頃になった。ところが午前4:26(日本時間12:26)に、日本にいる娘から「安倍元首相銃で撃たれて意識不明」とのメッセージが入っていたことに朝5時頃、気がつき、すぐに完全に目が覚めた。

BBCラジオの6時のニュースでも、ジョンソン首相辞任の件に続いて、準トップの扱いで報じられていた。朝7時から脱炭素化技術ELSIプロジェクトのオンラインミーティングがあり、その後も報告書原稿を進めなければいけないなど、今日はしっかり仕事をしなければならない1日だったのだが、事件のショックで、どうにも落ち着かない感じになってしまった。

7月9日(土)

気を取り直し、週末は宿舎にこもって、溜まっている勉強をまとめてすることに。報告書原稿の執筆を進めつつ、遅れている翻訳の作業も並行して行う。

2020年に出たOECDの報告書、Innovative Citizen Participation and New Democratic Institutions: Catching the Deliberative Wave を日本語訳して出版すべく、日本ミニ・パブリックス研究フォーラムの仲間と分担して翻訳を進めている。各章の翻訳原稿は一通り揃い、現在、お互いの翻訳を手分けしてチェックしているところ。私も2章分、チェックを受け持っているのだが、想像以上に時間がかかり、先週金曜日だった締め切りを1週間も過ぎてしまっている。

原文を短く区切って読み、訳文の対応箇所をチェックして、訳の間違いや訳し漏れ、日本語として読みづらところなどがないかを、ほぼ一文一文、照らし合わせながら確認していく。時間がかかり、根気のいる作業である。

少なくとも2度は通読した報告書を、部分的にとはいえ精読することになり、理解を深める良い機会である。とくに自分が今、関心を持っているミニ・パブリックスの制度化(institutionalisation)について取り上げた章と、全体のまとめとなる最後の章を担当しているため、理解を再確認する意義はとくに大きい。この報告書は、ミニ・パブリックスや民主主義のイノベーションの分野では、最近最も影響力のある文献である。一刻も早く、読みやすくて信頼できる日本語訳を出し、日本でも広く活用してもらえるようにしたいという思いを新たにした。

7月10日(日)

前日に引き続き宿舎で勉強。翻訳チェックは1章分が済んで、朝のうちに共訳者に共有した。その後、報告書原稿作成の続きに戻る。

午後、1時間ほど、先日に引き続き、オンラインで IHRP 全国高校生 異分野融合型研究プログラム のメンターとしてのボランティア活動。今日は、研究を進めている参加者の高校生から、研究計画づくりの過程で生じている疑問や悩みを聞き、もう一人のメンターの方と一緒にアドバイス。今年度の全体テーマは水問題。自分の専門に近い研究テーマばかりではないのだが、研究計画を組み立てる上で考慮すべきことについて、俯瞰的な視点からコメントするよう心がけた。高校生の反応は上々で、数日前にクラウド上で先に書き込んでいた研究計画書へのコメントと合わせて、それなりに役に立つアドバイスができたみたい。研究者として身につけてきたスキルを、若い人たちにこういう形で伝えることで貢献できるのはうれしい。

その後、最近、宿舎にいる日曜日の定番となりつつある近所のGreggsへ。買ってきたソーセージロール(「Greggsといえばこれ」という鉄板メニューらしい)と弁当を食べながら、宿舎のキッチンにあるテレビをつける。参議院議員選挙の開票速報は映らないらしい。日本では開票速報の裏番組?としてEテレで中継中の、テニスの全英オープン男子決勝戦ジョコビッチ vs キリオスをみる。

ジョコビッチ vs キリオスの決勝戦を見ながら昼食

その後、スーパーが閉まる前に食材の買い出し。外は夏らしい天気。宿舎で机に向かって勉強している時間が長い週末だったが、今週は半ばに1泊でロンドン往復を強行して疲れてもいたので、これぐらいがちょうど良かったかもしれない。