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北海道大学で科学技術コミュニケーション・科学技術社会論を担当している三上直之のサイトです

川本准教授にインタビュー

札幌は昨日、朝がたにうっすら雪が積もり、日中も4℃ほどまでしか気温が上がらない、冬に戻ったような天気でした。しかしキャンパスは、火曜日に入学式を終えたばかりの新1年生でごった返し、寒さを吹き飛ばす熱気に満ちていました。そんな中、当研究室に4月1日付けで新たにスタッフとして加わった川本思心准教授をCoSTEPの研究室に訪ね、大学院教育や今後の研究の抱負などについてお話を聞いてきました。【写真=CoSTEP、聞き手・構成=三上直之】

――川本さんが、理学研究院に異動されて大学院教育では当研究室所属となり、まる10日経ちました。異動後も引き続きCoSTEPを兼任され、科学技術コミュニケーター教育プログラムの運営や授業なども担当されるということで、昨年度にも増して、お忙しい毎日を過ごされていることと思います。

川本 着任と同時に理学部5号館に居室を頂きまして、今のところ本拠はCoSTEPのこの部屋に置きつつも、週2日程度、理学部の方で仕事をするリズムになっています。5号館は、学部から大学院時代の約10年を過ごした古巣でして、研究中心の世界である理学部と、このCoSTEPとの間を往復する生活に心地よい刺激を受けています。

――新しく担当される授業も始まりますね。

川本 さっそく来週から、CoSTEPの同僚と一緒に、主に1年生を対象として開講する全学教育の授業が始まります。昨年も携わった大学院生向けの科学技術コミュニケーションの授業は、今年度からは責任教員となり新たな気持ちでスタートします。
 後期には、杉山滋郎先生と一緒に全学教育の科学史の授業も担当します。前半を杉山先生が教えられ、私は後半を受け持たせていただく形ですが、ミミズの研究のかたわら興味を持ってきた再生生物学の歴史を、最先端の研究とも対比させつつ読み解く授業になりそうです。
 じつは、ちょうどこの授業の構想を練っていた1月下旬に飛び込んできたのが、「STAP細胞」の第一報でした。締め切り直前だったシラバスに何とか盛り込むべきかとの考えが頭をよぎりましたが、「待てよ。あわてて飛びつくべき話ではないかもしれない」と思い直して、結局入れなかった。そのすぐ後に、あのような展開となってしまって……。最初に考えたのとは違う意味で、授業で必ず取り上げるべき項目となってしまいました。

――このウェブサイトに掲載した4月1日付の着任のあいさつで、川本さんは、博士課程時代の生物学の研究と、その後の科学技術コミュニケーションや科学技術社会論の研究とが、「底流において同じ関心でつながっている」とおっしゃっています。その「同じ関心」とはどんなものなのか、少し詳しくお話しいただけませんか。また、その関心は今後も色々な形で貫かれるのだと思いますが、一方でこの研究室で大学院教育を担当されることになり、新たに取り組んでみたいことなどがあれば、それも聞かせてください。

川本 そうですね……まず後の質問から答えると、CoSTEPというフィールドを持っていることが私の強みなので、ぜひこれを生かした研究をしたい。例えば、研究者が日々の研究や科学技術コミュニケーションを含む様々な実践の中で、どんなふうにふるまうのかをじっくり見ていくような研究ができれば、と思っています。と同時に、個々の研究者のふるまいを越えて、もう少しマクロに集団としての研究者がどこへ向かっていくのか、ということも明らかにしていきたい。研究者集団の中で、科学コミュニケーションという文化なり知識なりが、どんなふうに受容され、また変化していくのかを知りたい。具体的な研究方法までは、まだはっきり見えていませんが、自分が得意な数量的な社会調査の方法も用いて、専門家像の変遷を明らかにできればと考えています。

――個々の研究者のふるまいと、集団としての研究者の動向をともに理解したい、ということですね。生物学をバックグラウンドに持つ川本さんらしい問題関心ですね。

川本 まさにおっしゃるとおりなんだと思います。生物学と、科学技術コミュニケーションや科学技術社会論とが、底流においてどんな「同じ関心」でつながっているのかという一つ目の質問への答えは、このあたりにあると考えています。安易な生物学のアナロジーは避けるべきですが、例えば生物進化の系統樹のイメージでとらえているのかもしれません。つまり、大きな流れの中で研究者の生態、研究者の進化を捉えることができないか。そこには、世代を越えて先人から後の世代へという垂直伝播だけでなく、異なる種の間での水平伝播、水平遺伝のような動きも見いだせるのではないか。
 正直な話をしますと、こういう話は私の場合、必ずしも科学と社会の関係を良くしたいという実践的な関心から出発しているのではなく、世の中の現象をよく見えるようにしたら面白いはず、という好奇心が第一です。そうして分かったことが、結果として社会の役に立てばもっとうれしい、という感覚でいます。

――科学コミュニケーションを研究する川本さんのスタンスは、生物学者が生き物のつくりやふるまいをもっとよく知りたいという好奇心と通じる部分がある、ということですね。

川本 そうかもしれません。

――川本さんとは、私がCoSTEPの教員になった約10年前からの知り合いですが、こんなふうに改まってインタビューするチャンスはこれまでありませんでしたので、これを機に聞いてみたいと思っていたことがあります。それは、川本さんがご自分をどんなタイプの研究者だと考えていらっしゃるか、ということです。研究者にも色々なタイプがいると思うのですが、川本さんご自身はどんなタイプだと思っていらっしゃいますか。

川本 うーん、難しいですね。それは研究者として立っていく上でとても大事なことだという自覚はあって、私の悩みどころでもあるんです。生物学の研究を中心にやっていた頃のことを言えば、標本づくりが得意で自信があったし、また専門のミミズについて言えば、自分は3本ないしは5本の指に入るぐらい詳しい人間だという自負がありました。
 そんな中、科学と社会の関係には昔から関心があって、自分なりに本を読んだり、考えたりしてきた。もともと生物学は、数量的な方法も使いながら現象をある程度マクロなレベルで捉えつつ、フィールドワークや個体の観察などミクロに対象に迫り理解するという学問です。近年取り組んできた、数量データを用いた科学リテラシーに関する分析などは、今改めて振り返ると、まさにミクロなコミュニケーションの場面を念頭に置きつつ、数量化によって対象をマクロに捉えるというアプローチだったと思います。そのあたりが、生物学研究者として育ってきた自分の強みかもしれないと思っています。
 目上の方々に、「川本は意外と人の言うことを聞かない」と言われることがよくあります。自分で考えても、この指摘は結構当たっていると思う部分がありまして、たしかに自分の興味にきわめて正直な人間だと思います。私は根っから理科系の人間ですが、色々な分野に関心をもって首をつっこんできたので、東工大で理工系のそれこそ様々な分野の先生方と協働する際に、打ち解けてお話しできる関係をつくりやすかった、と思っています。
 7年前、北大の博士課程を修了して、科学コミュニケーションの分野で東工大に就職することになった際に、お世話になったある先生が「あらゆる分野で二流になりなさい」という趣旨の言葉を餞に下さったことがありました。東工大での仕事で私の支えになったのが、まさにこの「あらゆる分野で二流に」という言葉でした。それぞれの分野に一流の方はいらっしゃるけれど、一流の人たちの狭間で取りこぼされた仕事というのがあって、そういうものを拾っていくには分野をまたいで仕事にしていかなければならない。また、そういった所にこそ、科学技術コミュニケーションが解決しなければならない社会の課題が残されている。7年前にその先生が下さった言葉の意味は、そんなことではないかと思っています。実際、「あらゆる分野において二流」であることが本当にできたなら、それはおそらく一流以上の存在なのかもしれないと思っていて、そんな存在を目指していきたいと考えています。

――なるほど、深いですね。もう一つ、うかがいたいのですが、教育者、先生としてはご自分はどんなタイプだと思っていらっしゃいますか。

川本 授業などだと学生に親切で、どちらかと言えば優しいタイプの指導者なのかなと思うのですが、研究や論文執筆を指導するとなると急に厳しくなる面がある、と思っています。これは研究になると、学生とは言っても自分の共同研究者として見てしまうので、やや真剣になりすぎてしまうのかもしれません。もう少し余裕を持って接しなければいけませんね。

――川本さんの師匠でいらっしゃる栃内新先生には、私もCoSTEPの仕事などでかれこれ10年近くお世話になっています。しかし、本業である生物学の研究室で栃内先生がどんな先生なのかはあまり知らないのです。おそらく、川本さんの大学教員としてのスタンスを形づくるうえで、栃内先生の影響は計りしれないものがあるでしょうね。

川本 そうだと思います。学部生の頃から約10年間、栃内先生のもとで指導を受けたのですが、先生の指導は単に実験などのテクニックを細かく教え込むのとは違って、「自分が何をやりたいのか問題意識をはっきりさせなさい」ということを本当にしつこいほどに言われました。その一方で、研究の基礎として生き物の飼育を大事にされていて、生物学の研究者であるなら「自分で増やすことができてなんぼ」「きちんと生物と付き合えてなんぼ」ということは叩き込まれました。

――物事の本質にこだわりながら、自分の関心を徹底的に突き詰める川本さんの姿勢は、やはり栃内研究室で育まれたのですね。私が栃内先生を存じ上げているからかもしれませんが、とても興味深いです。早ければ今秋から修士課程や博士後期課程の大学院生を受け入れ、直接指導されることになりますが、川本先生のもとで学びたいと考えている人に対して、最後にメッセージをお願いします。

川本 具体的に何をテーマに選ぶにせよ、データに対して真摯に向き合うタイプの人に来てもらえたらと思います。そのデータを取るために大変な思いをすることをいとわない人、またそのデータができる過程に関わる人たちに対する思いをしっかりと持って研究できる人に来てほしい。そして何といっても、先ほどの栃内先生の話に通じますが、「自分の好きなことを好きにやりたい」という人に来てほしいです。修士課程であっても、ここは自分の研究室なんだというぐらいの思いで、私と一緒に道を切り開くことを楽しんでくれる人に来てほしいです。

――なんだか私もワクワクしてきました。どうもありがとうございました。

(2014年4月11日、北海道大学CoSTEPの川本研究室で)