mikami lab.@名古屋大学 大学院環境学研究科 環境政策論講座

名古屋大学大学院環境学研究科 環境政策論講座の三上直之のサイトです。2023年10月に北海道大学から現所属に異動しました。

【NC日記】第2週:2022年6月6日-12日

6月6日(月)

時差の影響はだいぶ緩和されてきたようで、昨夜、遅くまで雑用をして、午前1:00頃に就寝した。こんな時間まで起きていることは、日本でも珍しい。朝はゆっくり起き出して、9:30頃、研究室へ。

11:00からオンラインミーティングが二つ続く。研究協力者として参画を求められている研究費申請についてのブリーフィングと、その後、2020年からボランティアで関わっている、高校生の異分野融合型研究プログラムIHRPの活動打ち合わせ。

合間に、20代の頃、語学留学したバンクーバーで知り合って以来、四半世紀近い付き合いになるドイツ・ブレーメンの友人、Jensとチャットでやりとり。9月にニューカッスルに訪ねて来てくれるということでスケジュールを相談する。そのやりとりをしている過程で、彼の唯一の身寄りであるハノーファーのおばさんが、今年、80歳を迎えるそうで、もし私がドイツに来ることがあれば、ぜひまた合わせたいという話も出る。おばさんとは、大学院の6年目の2004年、会議出席でスウェーデンイェーテボリに行った帰りにJensを訪ねた際、一度だけ会っている。このときは私自身、先の見通しが全くないまま博士課程4年目に突入した春の一人旅で、今では最も思い出深い旅の一つになっている。

9月下旬にDemocracy R&Dの年次総会に出席するためベルリンに行くことになっている。その前後に休暇をとって、ハノーファーに立ち寄るのはどうか、ということで話がまとまった。

長年の友人やそのおばさんと再会できそうだというのは何とも心踊る話だ。今回、イギリスに1年間行ってしまうということで、出発前の1カ月ほど、家族や友人、ゼミの仲間などと一緒に食事をしたり、外出したりといったイベントが続いた。直接会えない人とも、メールやSNSでさかんにメッセージを交換したりした。いずれも心が満たされる時間で、今回のイギリス行きで一番良かったことは、Jensやおばさんとの再会も含めたこの種のことだったかもしれないとすら思っている。と同時に、こうして会ったり、ことばを交わしたりした(する)人たちと、次に会えるのはいつだろうかといったことを考えてしまい、なんとも言えない気持ちになる。

昼食はいつもの通り学食で。午後は、翌日の大学院ゼミで新たに読み始めるバーガー&ルックマン『現実の社会的構成』(The Social Construction of Reality)の予習。担当部分である序論のレジュメを黙々と作る。

レジュメをほぼ完成させて、夕方はメトロを使って中央駅へ。週末のケンブリッジ行きのチケットの受け取り+購入。行きのチケットはネットで無事に購入できたのだが、帰りの分がうまくいかなかったので駅に行くことにした。駅ですんなり受け取りと購入ができ、ひと安心。このあたりのことに慣れるのには、もう少し時間がかかりそう。

メトロを使う用事は一日券があると効率的なのでまとめて、ということで、前日日曜日、午後4時の閉店間際に行ってゆっくり見ることができなかった郊外スーパーにもう一度行ってみる。満を持して売り場を見てみたが、前日を超える収穫はなかった。

晩ご飯はスーパーで買ってきた二切れ入りの鮭の切り身と、カリフラワーなどの野菜を焼いてみる。まずまずの出来だが、宿舎のキッチンにある共用のフライパンはかなり使い古されていて、焦げ付いてしまうのが難点。フライパンは早めに個人用を買ってくるべきだと思う。同じフロアのフラットメートもそうしているみたいだし。

6月7日(火)

昨日は夜10時頃に布団に入って、朝5時半までほぼ熟睡した。出発前いつ頃まで普通に睡眠がとれていたか、記憶が定かでないのだが、これだけまとまった時間、ぐっすり寝られたのは少なくとも2週間ぶりだろう。

朝起きてメールをチェックしたところ、編者を務めているもう一つの企画について、前日依頼を送った著者候補の方から承諾の返事が入っていた。これは何の企画なのかというと、今年度、国立国会図書館の委託で「科学技術のリスクコミュニケーション」をテーマとして、主に国会議員向けの報告書を作成する仕事を請け負っている。出発前の4月上旬頃から、あれこれ試行錯誤しながら構成を考え、依頼を進めてきたが、ようやく9割方、固まりつつある。

7時半に出勤し、ゼミで読むバーガー&ルックマンの予習の続き。11時からゼミ。

午後は、学内に新たに立ち上がった "Centre for Climate and Environmental Regilience" という分野横断のセンターの設立記念セミナー。工学系や自然科学系のほか、人文社会系の研究者も参加して、各自の研究についての報告と、ディスカッション。私の共同研究者のスティーブンも、自らが関わっているイギリスでの気候市民会議について、パネルディスカッションで話題提供していた。終了後のティータイムに、何人かの研究者と立ち話。地元の市役所での動きなど、いくつか参考になりそうな情報を聞く。このようなイベントがオンラインではなく、対面で行われるようになっているのは助かる。人が集まるところにはなるべく顔を出していくようにしたい。

6月8日(水)

昨日も10時頃に就寝し、5:40起床。午前3時に目覚めてからはあまり熟睡できなかったが、ペースはつかめつつある。いつもの学食が8時から朝食を出していることに気がついたので、今日は朝食は学食で食べることに。少しのんびりしているうちに時間がたってしまったが、6:50には研究室へ。出発前から遅れていて懸案になっている原稿(本当に申し訳ありません m(_ _)m)を進める。

8:00から週に1度の研究室のスタッフとのZoomミーティング。今日はSさんがお休みなので、Knさんと一対一で。この在外研究のための長期出張の手続きに関することで、諸々打ち合わせ。郵便物は一時に大量に届くことがあると処理に困るなと思っていたが、Knさんからの報告では、今週は2通のみとのことで、ひとまずホッとする。

その後、午前中は、国会図書館の報告書作成について、総勢十数人の分担執筆者への依頼状と、執筆要項などの依頼文書を、スタッフのKrさんが用意してくれたドラフトをもとに完成させる作業。細かいところに気を使わなければならない作業で、仕上げにまとまった時間が必要であることはわかっていたので、この日は先週から空けておいた。なんだかんだと試行錯誤し、4時間半かかったが完成した。ものにもよるけれど、仕事を完成させるには、ある程度まとまった時間を確保する覚悟が必要だ。

大学内の生協の購買に初めて行ってみた。生鮮食品も含めてかなりの品揃えで、立派なスーパーマーケットである。これからはここも利用しよう。軽く買い物をして宿舎に戻って昼食。宿舎と研究室が至近距離なので、一度、宿舎に戻って昼食を食べるという技が使えるのが助かる。

16:30から、ハドリアヌスの陸橋のすぐ左手にある、大学博物館へ。その晩のことはFacebookに投稿したので、そのまま引用しておく。

今日はこちらに来て初めての飲み会でした。イギリスの大学では、夏休み前のこの時期(または新学期が始まる直前)にAway Dayと言って、学科や講座のスタッフが1日職場を離れて、教育や研究の長期的な戦略について議論する会議が行われるのが一般的だそうで、今日は政治学科のAway Dayが大学博物館で行われたのでした。私は昼間のAway Dayそのものには参加しなかったのですが、みんなと知り合ういい機会だということで、夕方から飲み会に誘ってもらい、参加してきました。政治学科のスタッフにとっても、みんなで集まるのは3年ぶりということらしく、なかなかの盛り上がりでした。人が集まって何かするときに起こることは、所変われど意外と共通しているということが発見できた夕べでした。詳しくはまたブログの方で書きます。明日は朝8時(日本時間16時)から仕事(TДT)ですので、今日はこのあたりで。おやすみなさい。(6月8日 22:32)

イギリスでは最近、Research Excellence Framework (REF) による、全国157大学を対象とした7年に一度の研究力評価の結果(REF2021)が発表された。

www.ncl.ac.uk

ニューカッスル大学の政治学・国際関係論分野は、研究成果のうち38%が最上位の4点(world leading)、41%が3点(internationally excellent)という結果で、平均点も7年前の2.62から3.03に上昇するという飛躍ぶりだった。

政治学科の外部研究資金の獲得金額は、この7年間で4倍近くに増えた。スタッフの数も、任期付きの若手研究者を中心に倍以上に増加したという。

私としては、学科が勢いづく絶好のタイミングでお世話になることになったわけだが、このように急成長している組織では、マネジメント上、色々と難しいことも出てくるようである。博物館でのワイン会の後、連れ立って行ったパブでの若手・中堅スタッフの主な話題は、この先の学科の運営についてのことだった。私としては事情がよく分かっていないのと、英語の問題もあり、理解できない部分も多かったが、雰囲気はよく理解できるし共感できる部分が多かった。内輪のごちゃごちゃな話を聞かせてすまないと……みな口々に詫びてきたが、スティーブンや、同室のソラナ以外のスタッフとも少し距離が縮まった気がして、改めて懇親会も大事だなと思った。

6月9日(木)

午前中はスタッフのKrさんとZoomでつないで、昨日仕上げた国立国会図書館調査の原稿依頼状の読み合わせ。その後、10:30(日本時間18:30)から実施専門部会員として企画を担当している北海道大学公開講座(全学企画)の第1回目が開かれるので、Zoomウェビナーで傍聴した。

この日のお昼の出来事を、翌朝、Facebookに投稿したのがこちら。

昨日、昼食に出るのが遅くなり学食の定食が終わってしまっていました。天気も良いので、サンドイッチを買ってこの芝生の中庭に出てみました。 ベンチに腰掛けると、庭の片隅に桜の巨木があることに気がつきました。こちらで例年いつ頃桜が開花するのかは今度同僚に聞いてみようと思いますが、来年この木に満開の花がつく時期には、「ひと仕事終えた〜〜」という感じになっていられたらなと思っています。(6月10日 7:39)

写真中央が桜の木。左手の建物が旧図書館棟で、半円型の部分がいつもお世話になっている食堂

こんなことを書いたのには実は理由がある。日本から引きずってきている仕事に追われつつも、それと並行して、今週はイギリスでのこの先1年間の活動についても、じっくりと考える必要があった。というのも、10日(金)午後にスティーブンと初めての本格的な研究打ち合わせをすることにしていたからである。

『気候民主主義』にもいきさつを少し書いたけれど、この在外研究は2020年4月から1年間の予定で行うはずだった。が、新型コロナのパンデミックでそれが延期となり、もともとはイギリスで勉強してきてからやるはずだった札幌での気候市民会議も、日本語での単行本の出版(→『気候民主主義』のこと)も、順序を入れ替えて、先に行う展開になった。この渡航のための研究費を獲得する申請は、4年前の夏に行ったのだが、その時とはあらゆることが変化していて、1年間の滞在で何をやるべきかは改めてよく考えて、整理し直さなければならない状況になっていた。

今週はこの作業を、頭の片隅でやりつつ他の仕事をこなしてきた。といえば格好良いが、ずっと気にはなりながらも、これについてじっくりと考える時間を昨日までとれずに、スティーブンとの打ち合わせの前日を迎えてしまった、というのが実態である。

この4年間の経験、とくに2020年以降の2年間の動きを踏まえて、やりたいこと、やれそうなことの材料は色々とあるのだが、それをどう組織化して優先順位をつけ、1年間という限られた時間で、何をどのように進めたいのか。自分自身の中で考えをきちんと整理する必要があるし、それを共同研究者であるスティーブンにも、このタイミングでどうしてもわかりやすく伝えたい。

そこで午後から翌10日にかけては、ほぼこの作業に集中することにした。

夕方、ショッピングセンターのスーパーで、20ポンド近くはたいてきちんとしたフライパンを買って帰り、鮭の切り身のもう一切れを使ってチャーハンを作る(ご飯は例のレトルトが活躍)。フラットメートの中国人が美味しそうだねとのぞきこんできたので「我喜欢吃炒饭」とか答えたりして、ずっと怠けている中国語の練習をしてみたり。

6月10日(金)

朝いちで、国会図書館の最後まで残っていた一部の章の著者(候補)の研究者とZoomでお話しし、参画をお願いする。メールのやりとりではお引き受けいただけるかがまったくわからない雰囲気だったのだが、かなり積極的に快諾を頂けた。これで報告書の構成は、ほぼ固まった。

その後、昨日から続けている、イギリスでの活動計画づくりの作業に戻る。どうにか整理がつき、スティーブンに読んでもらうレジュメにまとめ始めたら、新しいいのちが生まれるように一気に組織化されだした。イギリスに渡航するための事務的な作業は今年に入ってから、集中的に進めてきていたが、渡航して何をやるのかはまともに考えることができず、頭の片隅にすっきりしないゾーンを抱えたような状態だった。その部分の霧が一気に晴れたような気分であった。中身については改めて書く機会もあると思うので、省略。

午後2時からスティーブンと40分ほど打ち合わせ。自分の中で納得がいく形で整理をし、優先順位を付け直していたので、スティーブンにもすんなり伝わり、とにかく仕切り直して一緒に頑張っていこうということになった。

だいぶ気分が軽くなって宿舎に戻り、週末の出張の荷物を準備して出発。夕方の汽車でケンブリッジへ。

6月11日(土)

ケンブリッジ大学で、学生が主催するCambridge Climate Sustainability Forum 2022というイベントを、土日の2日間聴講。A Climate Resetが全体のテーマで、気候変動対策のDecolonizationとか、エコサイド(環境破壊罪)をめぐる議論の最新動向とか、ケンブリッジでの気候変動をめぐるアクションなど、気になるテーマのパネルディスカッションが続く。ケンブリッジで客員も務めているYさんに教えてもらい参加したのだが、イギリスに来てすぐのインプットとしては、ぴったりの内容だった。

6月12日(日)

イベントは午前中で終わり、帰りの列車までの間少しだけ、ケンブリッジのまちを見て回る。「2〜3時間の滞在時間でここはぜひ見ておくべきというところがあれば教えて」という私の問いかけに、これもYさんが勧めてくれた、Kettle's Yardというギャラリーを見学。

あるキュレーターの自宅兼オープンスペースだった住宅が、今はケンブリッジ大学に寄贈されてギャラリーになっている。ギャラリーでは、中国出身で現在はドイツ在住の現代美術家艾未未アイ・ウェイウェイ)の作品展が開かれていた。

Kettle's Yardで開かれていたアイ・ウェイウェイの作品展

住宅だった部分は、インテリアもそのままに保存されていて、見学できるようになっている。

元オーナーのJim Ede氏は"Do come in as often as you like - the place is only alive when used." ということばを残しているとのことで、このKettle's Yardも1950年代に建てられた当初から、サロン的に学生や地域の人たちに開放されていたという。

入り口に掲げられた元オーナーJim Ede氏のことば

スタッフのホスピタリティも素晴らしく、ずっとのんびりしていたくなるような、本当に気持ちの良い場所(ambience)であった。

夕方の列車でニューカッスルへ帰る。ぎりぎり明るいうちに帰り着くことができた。まだ住み始めて2週間なのに、すでに「帰ってきた」というホッとした感覚が生じることに驚く。17年前に千葉から札幌に引っ越してしばらくの間、道外への出張からの帰途、快速エアポートで札幌駅に近づくと「帰ってきた」と感じることを、どこか不思議に思っていた。頭のどこかで「北海道は旅行で来る所だ」と考えているのに、心や体は「帰ってきた」と感じて、確かにくつろいでいる。忘れていたあの感覚を、こんな形で久しぶりに味わうとは思っていなかった。