mikami lab.@名古屋大学 大学院環境学研究科 環境政策論講座

名古屋大学大学院環境学研究科 環境政策論講座の三上直之のサイトです。2023年10月に北海道大学から現所属に異動しました。

英国 気候市民会議 Climate Assembly UK 報告(3) 〜いよいよ会議場へ〜

英国 気候市民会議 Climate Assembly UK 報告(2) 〜主催者と専門家〜 からつづく

さて、いよいよ1月26日午前中に傍聴させてもらった際の会議の様子を報告しようと思うのだが、その前に、3月まで4回にわたる会議が、全体を通してどのような流れで進められる見通しなのかを、説明しておく必要があるだろう。

気候市民会議は初回であった先週末(1月24-26日)を含め、3月下旬まで断続的に計4回の週末をかけて行われる。

主催者である議会側としては、議論の進め方に関して、市民会議(の運営を担う専門家とInvolveなどのチームに対して)次の2点を求めている、という。

  • 6つの特別委員会にとって、議論を通じて導かれる提言のいずれが自分たちの役割に関係するのかがはっきりするよう、テーマ別の議論方法(thematic approach)で話し合いを進めてほしい
  • 実質排出ゼロへの道筋の中でも、参加者が自分自身に引きつけて考えやすい側面に焦点を当ててほしい

専門家 Expert leads や Involve など、運営側の説明によると、参加者に対しては、2050年までに実質排出ゼロを実現するために何をすべきか(what should be done)、またそれはどのようになされるべきか(how it should be done)について、結論を出すことを求める方向で議論を進めていくという。

そのために、4回の週末全体を通して、①参加者が気候変動問題について情報提供者である専門家らとの対話を通じて理解を含める学習(learning)、②次にそれをもとに参加者の中で話し合う討議(deliberation)、③そして最後に会議全体としての意思決定(decision)、という3つの段階で議論を進めていくことになる、とされている(これ自体は、一般の人びとを集めて行う市民会議の構成としては非常にオーソドックスなものである)。

f:id:nmikami:20200126092321j:plain

傍聴者向けのブリーフィング。注意事項の説明だけでなく、会議の趣旨や進行方法にもわたる実質的なものであった。質疑にも運営スタッフが丁寧に答えていた

以上を踏まえて、傍聴者へのブリーフィングで説明された、4回の大まかな進行の見通しは、ざっくり訳すと次のようなものであった。 

第1回(1月24日〜26日)気候変動と倫理的・戦略的論点に関する学習

  • 気候変動と実質排出ゼロ目標についての主要な背景情報
  • 実質排出ゼロへの道筋全体に関わる倫理的・戦略的な論点についての検討
  • 今後の市民会議の議論を支える基本方針(a set of principles to underpin Assembly’s discussions in later weekends)の起草とその優先順位づけ

第2回(2月7日〜9日)エネルギーの供給および需要側の諸課題に関する学習

  • 市民会議全体が、次の3グループに分かれて進める
  1. 移動のあり方(陸上交通、航空輸送を含めた個人の交通機関の利用)
  2. 家庭における熱とエネルギー利用
  3. 購買・消費、食・農業、土地利用

第3回(2月28日〜3月1日)需要側の諸課題に関する討議

  • 第2回で取り上げられた論点に関する討議と意思決定

第4回(3月20日〜22日)エネルギー供給とネガティブエミッションに関する討議とふりかえり

  • エネルギー供給とネガティブエミッションをめぐる諸課題についての詳しい討議と意思決定
  • 会議のふりかえりとまとめなど 

 このうち、今回傍聴したのは第1回の後半部分にあたる1月26日のセッションの一部である。4人の専門家のうち、Chris Stark氏とRebecca Willis氏が登壇し、それぞれ15分程度の短いレクチャーを行った後で、参加者からの質問に答えるというもので、実質的には1時間半程度であった。

会議全体の日程案では、1月24日(金)〜26日(日)が第1回目の週末ということになっており、その後も、各回(週末)ごとに3日間という書き方になっている。しかし実際には、少なくとも今回の週末を見るかぎり、金曜日にセッションは設定されていない。土曜日朝から議論を始められるよう、参加者は前日までに会場入りしておく必要がある関係で、金曜日も会議日程に含まれているということらしい。また日曜日は終了後に、参加者はそれぞれ帰途につくことになるから、実質的な会議日程はお昼までには終わる(少なくとも今回はそうだった)。つまり実質的な会議日程は、土曜日朝から日曜日昼までの1日半であり、金土日の3日間という書き方は、行き帰りの移動まで含めたスケジュールというニュアンスのようである。

 

この日程の中で、今回私は26日(日)の午前中のセッションを傍聴させていただいた。

会場は、イングランドの中西部に位置する英国第2の大都市、バーミンガム市。市の中心部にあるホテルの最上階のホールを貸し切って行われた。

私は前日夕方、ロンドン経由で現地入りし、近くに宿泊していた。事前に事務局からメールでの指示があったとおり、集合時間である9時に十分間に合うよう、徒歩で会場に向かった。スペースの都合などもあり、一般から広く傍聴者を受け入れるスタイルをとっていないことはわかっていたが、一体何人ぐらいが一緒に傍聴するのかはわからない。受付を済ませてロビーで待っていると、傍聴者が三々五々集まってきて、最終的には女性11人、男性4人、計15人になった。

この日、参加者は9時に集まり、ガイダンスなどの後、今後の市民会議の議論を支える基本方針について議論を行っていたようである。ただこの部分は、小グループごとのテーブルディスカッションが中心になり、見学には適さないと判断されたためか、この部分は傍聴の対象には含まれていなかった。代わりに、集合した我々傍聴者はフロント近くの別室に通され、運営側からのブリーフィングを受けた。ウェブサイトで公開されている情報が中心であったが、気候市民会議の概要について改めて説明を受け、質疑応答が約30分にわたって行われた。 

このブリーフィングの冒頭、15人の傍聴者が簡単に自己紹介したのだが、その顔ぶれがなかなかに興味深かった。早口のイギリス英語?で話す人が多く、すべては聞き取れなかったけれども、市民参加の実践家や、私のような研究者の他にも、気候変動の問題で一昨年から座り込みなどの行動を展開して注目されている「エクスティンクション・リベリオン(XR)」のメンバーという人も2人来ていた。XRが、2025年(!)排出ゼロの実現と並んで、気候市民会議の実施を主張の一つとして掲げてきたことはよく知られているが、2人はXRの中の気候市民会議に関するワーキンググループのメンバーだと話していた。

また政府の関連する省の職員や、それから下院議員もひとり来ていた。この議員さんは、マンチェスターのある選挙区選出の労働党の女性議員で、後で立ち話したところ、今回の参加者の中に自分の選挙区から選ばれた人がひとり含まれている関係で、運営事務局から誘われて傍聴に来たのだという。気候政策や環境政策が特に専門というわけではないけれども、議会がこのような熟議民主主義の方法を今後いかに生かしていくことができるのかを考えたい、という問題意識で傍聴に来られたとのことであった。

ブリーフィングが済むと、10時すぎにエレベーターでホテルの15階にある宴会場に案内された。会場には14個の丸テーブルが置かれ、各テーブルに7〜8人の参加者が着席し、青いTシャツを着たテーブルファシリテーター(単にfacilitator(s)と呼ばれていた)が付いている。テーブルは結構密集している感じで、参加者席のレイアウトだけみると、100人規模の披露宴をイメージしていただけば良い。

f:id:nmikami:20200128160618p:plain

気候市民会議の会場の様子(Climate Assembly UKウェブサイトから)

各テーブルにはフリップチャートが1台ずつ置かれていて、すでに前日から専門家の話を聞いたり、今後の議論の基本方針を話し合ったりした過程がびっしりメモされていた。ポストイット(付箋紙)も飛び交っている。ひと部屋に約100人が入り、7〜8人のグループに分かれるという構成は、世界市民会議(World Wide Views)と全く同じであり、会場のビジュアル的には過去の世界市民会議の(日本を含む)各国の会場の雰囲気とそっくりであった。

参加者は9:30頃からテーブルごとに議論を始めていた。正面のスクリーンには、"The UK’s path to net zero by 2050 should be underpinned by the princicles of …[X, Y, Z]."のお題が大きく表示されているから、おそらく上述した今後の議論の基本方針(principles)について話し合っているのであろう。

我々傍聴者の席は、このやや縦長の宴会場の最後部に設けられていた。参加者のテーブルからは少し離れており、テーブルでの議論の内容を聞き取ることはできない位置である。

席に着いて、専門家とのセッションが始まるのを待っていると、4月からの私の在外研究を受け入れてくれるStephen Elstub(ニューカッスル大学)が現れた。昨年9月に研究の準備のためニューカッスルに2週間滞在したとき以来、約4か月ぶりの再会である。Stephenは今回、この気候市民会議の公式の評価者を務めている関係で、初日から傍聴していた。

雑談していると、間もなく全体司会(このセッションはInvolve代表のTim Hughes氏)の進行で、専門家とのセッションが始まった。

……と、本題に入る前に、思いのほか話が長くなってしまった。続きは改めて。ちなみに、第1回の会議の動画はもうすべてウェブサイトに上がっている(何という手際のよさ!)、ということを書こうと思って、今、念のためウェブサイトを確認したところ、その後さらに動画どころか、専門家やその他講演者のレクチャーの内容が、書き起こされて掲載されているではないか。

www.climateassembly.uk

もうあとはこのページを見ていただけば十分で、私が何か紹介する必要もないという状態になってしまったわけだが、自分自身の復習も兼ねて、次はこのサイトを見つつ専門家とのセッションの様子を簡単に報告したい。