mikami lab.@名古屋大学 大学院環境学研究科 環境政策論講座

名古屋大学大学院環境学研究科 環境政策論講座の三上直之のサイトです。2023年10月に北海道大学から現所属に異動しました。

英国 気候市民会議 Climate Assembly UK 報告(1) 〜参加者の選出方法〜

英国バーミンガム市で1月25日、英国議会下院主催の気候市民会議 Climate Assembly UK が始まった。国全体の縮図になるようにくじ引き civic lottery で集まった110人が、英国が昨年6月に法制化した「2050年までに温室効果ガスの実質排出をゼロにする」という目標の実現方法を議論する。

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傍聴者受付(会場となったバーミンガム市内のホテルで)

会議はこの週末を含めて、3月まで4回の週末を使って行われる。私が今年4月から1年間、ニューカッスル大学の政治学科に滞在して行う予定の国際共同研究(「脱炭素社会への転換と民主主義の革新・深化との統合的実現に関する国際比較研究」)の主な対象の一つがこれになるわけだが、今回はそれに先立って、こちらに短期間滞在し、会議の一部分(1月26日(日)の専門家との対話セッション)を傍聴させてもらった。

www.climateassembly.uk

会議の概要は上記のウェブサイトに掲載されているが、まだ工事中という感じで、会議の記録映像や情報資料なども含めてこれから充実してくる様子である。現時点でサイトに掲載されている情報だけでも会議の大枠は把握できるものの、現場を傍聴して初めてよく理解できたことも色々とあったので、ここに書き留めておきたい。

最初に、会議の主役となる110人の参加者(members)の選出方法について書いておきたい。

基本的には、英国全体の人口の縮図をつくるような形で、sortitionとかcivic lotteryなどと呼ばれる無作為抽出(くじ引き)の方法で選出する。具体的には次のような手順で行われた。

イギリスにはRoyal Mail(日本でいうと日本郵便株式会社)のPostal Address Fileというものがあるらしく、そこに載っている一般家庭の住所の中から、30,000人を無作為抽出する。80%(24,000世帯)は同Address Fileから完全に無作為抽出し、残りの20%(6,000世帯)は最貧困地域の郵便番号に絞って抽出するという。こうした地域からの回答は少なくなりがちだからだという。

こうして無作為抽出した30,000人に、2019年11月6日、招待状が送付された。招待状を受け取った人は、すぐに電話かオンラインで返信する。これは本日(1月26日)現在、まだウェブサイトには載っていない情報だが、応答率は約6%(1800人)だったという(傍聴者向けのブリーフィングでのQ&Aから)。この1800人が、参加候補者としてプールされた。

次は、このプールの中から、コンピュータで層化無作為抽出を行い、110名を選ぶ。その際に、①年代、②性別、③学歴、④エスニシティ、⑤居住地域、⑥都市部居住者/農村部居住者、⑦気候変動への意見の観点で、16歳以上の英国在住者全体の構成にできるだけ近づけるようにする。

ウェブサイトには、これら7つの属性・特性ごとの、英国全体の構成、今回の気候市民会議参加者中の割合、人数の一覧表が掲載されている。これをみると、110人という限られた人数で、うまく国全体の縮図を作り上げていることがわかる。

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気候変動に対する態度別の参加者数(Climate Assembly UKウェブサイトから)

選出について感心したのは、人数がきわめて少ないとか、欠席の可能性が高そうだと考えられる集団については、あらかじめ割合が高めになるよう選出しておくため、次のような工夫が取り入れられていることである。すなわち、110人のうち、105人は英国全体の人口構成をできる限り反映するように選出するが、残りの5人については、over-sample groupsとして、そうした集団の中から選ぶという方法がとられている。具体的には、この枠で、気候変動について「あまり関心がない/懸念していない(not very concerned)」「全く関心がない/懸念していない(not at all concerned)」人たちを3人、北アイルランド居住者を2人追加したという(会場での担当者へのヒアリングから)。

かなり洗練されたサンプリングが行われている印象があるが、市民参加の分野では、このcivic lotteryのプロセスに特化した専門家集団(Sortition Foundation)がいて、今回の参加者選出もかれらが手がけている。

www.sortitionfoundation.org

 

なお、選出の際に、英国上下両院の国会議員、ウェールズスコットランド北アイルランドの各議会議員、およびその秘書・スタッフ、地方議会議員民選の市町村長、政党や英国議会の有給職員は除外されている。

参加者の選出方法については、ひとまず以上の通りである。次は、議論に必要な知識・情報を提供する専門家、利害関係者の構成について書きたい。今日のところはここまで。

英国 気候市民会議 Climate Assembly UK 報告(2) 〜主催者と専門家〜 へつづく