mikami lab.@北海道大学 科学技術コミュニケーション研究室

北海道大学で科学技術コミュニケーション・科学技術社会論を担当している三上直之のサイトです

シリーズ進学案内(8)修論の作成を通じて身につくこと


大学院理学院の平成26年度入試の募集要項の配布が始まりました。先週末には都内で、理学院全体の入試説明会も開かれました。こうして新たな学生を迎える準備が始まるこの時期は、修士2年次(M2)に在籍する大学院生の修士論文修論)執筆の取り組みが、一つのヤマ場を迎えるタイミングでもあります。これまで約1年間の成果を中間的に総括し、来たる夏休みにさらにどうやって研究を進めるかを明確にする大事な時期だからです。

当研究室ではこの時期、「修論検討会」と銘打ったセミナーを開きます。研究室所属のM2生がそれぞれ、修論の全体構想と研究の進捗状況、それに論文の内容を典型的に示す一つの章の草稿を用意して1時間ほどの報告を行い、それをもとに研究室のメンバーで討論をするものです。今年度は、ちょうど今週の木曜日から金曜日に予定されており、3人のM2生が報告します。

修論作成は、長期間の集中を要する孤独な作業です。今年3月に修士課程を修了した三浦太郎さんが、修論を書き終えた後に研究室内でのセミナーで、修論作成の経験について後輩に向けて語ってくれたことがありました。そこで三浦さんが強調していたのは、「日常的に自らを追い込む」習慣と、研究過程で生じてくる諸々の問題を「基本的には自分で解決する」という気構えの大切さでした。

三浦さんの話の中には、これから進学を考える方にとって、修論作成がどんなものかイメージするのに役立ちそうなポイントが数多く含まれています。以前も一度、このウェブサイトのニュース記事で、三浦さんの話のさわりをご紹介したことがありましたが、今回もう少し詳しく採録したいと思います。

  • 書きたいことを決め、はっきりさせるには、(1)背景・目的、(2)問題意識、(3)問い・仮説、をそれぞれ1分ずつで話せるようにする(いわゆる「エレベーター・ピッチ」の要領で)。
  • 文献は、自らの研究テーマや関心に遠いように見えるものも読んでみるべき。読むべき文献には、(1)議論の土台となる文献、(2)自分の研究とサンプルや分析方法の双方(またはどちらか片方)が似ている論文、(3)身近な先生や先輩が書いた文献(お手本として)、(4)分野内の必読書、などの種類がある。
  • 自分の場合、修士課程の2年間で、単行本と雑誌論文を合わせて約300篇の文献を読破し、修論ではそのうち約100篇を使った。
  • 日常的に自らを追い込み、書ける所から書いていくことが大事。パラグラフ単位のメモを日常的につくってストックし、それらを組み合わせて各章をつくっていく。
  • 論文の構成は大きな紙に手書きし、頭を整理した(マインドマップのような形で)。
  • ウンベルト・エコが『論文作法』の中で言っている、「範囲を狭めるほど仕事は良くなり、基盤がしっかりする。パノラマ的論文ではなく、モノグラフ的論文が望ましい」「序章や目次は、作業が進行するにつれて絶えず書き換えられなければならない」などの言葉が指針となった。

三浦さんの言葉からは、2年間かけて研究と論文の作成にじっくりと取り組むことが、自らの知的生産のスタイルの確立にもつながる、ということが分かります。試行錯誤を通じてつかみ取ったやり方は、修了後にどんな仕事につくにせよ、その先、長い間皆さんを支えてくれるものとなります。大学院で学ぶ大きな意義の一つは、こうしたところにもあります。

写真=科学コミュニケーション講座の修論発表会の様子