mikami lab.@名古屋大学 大学院環境学研究科 環境政策論講座

名古屋大学大学院環境学研究科 環境政策論講座の三上直之のサイトです。2023年10月に北海道大学から現所属に異動しました。

5/12発売『気候民主主義 - 次世代の政治の動かし方』

1年半近く、このウェブサイトをほったらかしにしてしまいました。

その間、色々なことがありました。

ここ数年とりくんできた気候市民会議や、気候変動対策と民主主義などのテーマに関する研究や実践をまとめた本が、5月12日に岩波書店から出ることになりました。

単著としては13年ぶりとなる著書です。

その前の単著は、35歳の時(2009年)に書きました。

東京大学に提出した博士論文をベースとした本です。

今、48歳ですので、このペースで行くと次の単著は13年後の61歳ぐらいまでに、ということになります。その時まで心身ともに健康で学問への情熱を失わずにやっていられるといいな、などと考えながら書きました。

が、しんどかった執筆が終盤にさしかかり、この原稿とももうお別れかという名残惜しい気分が現れてきて多少冷静になると、「次は61歳」とは言えない気もしてきました。

最初の単著は、2009年の4年前の2005年に出ていたことを思い出したのです。

大学院時代に生活費と学費を稼ぐためやっていたアルバイト(大学受験の現代文の講師)をベースにした新書でした。

bookclub.kodansha.co.jp

1冊目(2005年)から2冊目(2009年)までは、4年間。

ところが2冊目から3冊目(今回)までは13年。3.25倍もかかっています。

ということは、次は順調?にいけば13年×3.25=42年後の2064年。そのとき私は90歳か91歳ですので、生きているかどうかあやしいですし、少なくともまとまった文章を書く生活はしていないでしょう。

そんなわけで、執筆最終盤は「あぁ、単著としてはこれが最後の本になるのだ」と思いつつ、力を込めて書きました。

どこかでお目に留まりましたら、ぜひ読んでみてください。

 

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www.iwanami.co.jp

 

『気候民主主義 - 次世代の政治の動かし方』目次

はじめに
あらゆるものごとはつながり合っている/連鎖する課題群とSDGs/気候危機と民主主義の危機/筆者の専門分野と本書のアプローチについて

1 ヨーロッパに広がる気候市民会議――「くじ引き市民」が議論する脱炭素社会への転換
くじ引きで社会の縮図をつくる/気候変動とは何か/すでに生じている気候変動の影響/脱炭素社会への困難な道のり/「排出実質ゼロ」目標の意味/バランスのとれた情報提供のために/排出削減の道筋を考える/政策の基本原則についても議論/会議結果の用いられ方/フランスの気候市民会議/なぜ無作為抽出型の市民会議なのか

2 民主主義のイノベーション――危機に向き合うための変革の道具箱
ミニ・パブリックス/世界市民会議(WWViews)/市民議会の広がり/民主主義のイノベーションイノベーションの四つのツール/参加型予算/国民投票住民投票住民投票条例というイノベーション/常設型の住民投票条例/市民イニシアティブ/プレビシットという落とし穴/第一の疑問――民主主義の過剰・暴走なのではないか?/第二の疑問――エリート支配の強化につながるだけではないか?/評価基準1 包摂性/評価基準2 意思決定への影響力/評価基準3 熟慮に基づく判断/評価基準4 透明性+その他/熟議民主主義と参加民主主義の関係

3 脱炭素化のシナリオと「国民的議論」――原発事故後の討論型世論調査が残した課題
エネルギー問題としての気候変動対策/省エネ/エネルギーの脱炭素化をどう進めるか/二〇五〇年、エネルギーの脱炭素化のシナリオ/原発をめぐる世論と開かれた議論の必要性/原発事故翌年の「国民的議論」/討論型世論調査(DP)の導入/過半数が将来的な「原発ゼロ」を望む結果に/結果はどのように用いられたか/残された課題

4 日本で気候民主主義の芽を育む――地域発・若者主導の試み
世界市民会議の気になる結果/「生活の質」をテーマに市民会議を試行/コロナ禍で前倒しされた日本初の気候市民会議/「気候市民会議さっぽろ2020」/議題と情報提供の構成/くじ引きでの参加者募集に苦戦/気候市民会議での議論/投票結果/地域発の気候民主主義の広がり/「気候若者会議」というイノベーション/気候民主主義の底流にあるもの

終章 気候民主主義の生かし方
仮説としての気候民主主義/アイデアを固め、深め、広げる/制度化の必要性/気候民主主義の広がり/ことばを通じた解決にふみとどまるために

おわりに  
文献と注