mikami lab.@北海道大学 科学技術コミュニケーション研究室

北海道大学で科学技術コミュニケーション・科学技術社会論を担当している三上直之のサイトです

実況中継:北大1年生の一般教育演習「聞く力・話す力のトレーニング」

2009年から毎年、北海道大学の学部1年生を主な対象とした「聞く力・話す力のトレーニング」という演習授業を開いています。20人程度のクラスで、大学生にふさわしいインタビューやスピーチなどの口頭コミュニケーションの技術を、実際に練習しながら鍛える授業です。

スピーチをビデオで撮って、それを他の受講者とともにピアレビューしながら話し方の改善につなげていくとか、自分が口頭コミュニケーションのお手本にしたい人物にインタビューをとってきて、それをクラスの前で発表する、といったアクティビティをしながら、楽しくトレーニングしていきます。

実際にどんなことをやっているかは、実はある年に(無謀にも)授業の録画映像をオープンコースウェアOCW)として公開したことがあり、それが(恐ろしいことに)今でも閲覧可能ですので、それをご覧ください。

北海道大学OCW「一般教育演習(フレッシュマンセミナー)2011『聞く力・話す力のトレーニング』」

http://ocw.hokudai.ac.jp/field/field06/listeningandspeaking-2011/

また同じものが、iTunes Uでも公開されています。

iTunes U「聞く力・話す力のトレーニング 2011」

https://itunes.apple.com/jp/itunes-u/wenku-li-huasu-linotoreningu/id495653300

私自身は、発声や演技の系統的なトレーニングを受けた人間ではありませんし、インタビューに関しては多少の心得はあるものの、ジャーナリストやアナウンサーのようにその道の専門家、というわけでもありません。

けれども、初めは互いに見ず知らずのメンバーが、少しずつ人間関係を作り、やがて口頭コミュニケーションを相互に観察、評価し、高め合っていく場をつくる、というようなことについては、これまでの科学技術コミュニケーションの実践・教育や、質的社会調査の経験から、自分なりに試行錯誤を重ねてきたという自負があります。そのすべてを北大の1年生たちにぶつけることでつくっているのが、この授業です。

この「聞く力・話す力のトレーニング」は、歴代の受講生自身やティーチング・アシスタント(TA)の熱心な取り組みのおかげで、学生からたいへんな好評を得るプログラムに成長してきました。定員は大学のきまりで23人となっているのですが、毎年、初回には定員を大幅に上回る希望者が集まり、抽選となります。

これまで7年間後期に開いていたこの授業を、今年度、諸般の事情から前期に移しました。その影響もあったのでしょうか、2週間前に開いた初回の授業には、81人もの学生が集まりました。初回にはいつも、この授業の履修動機を短く書いてもらうアンケートをとるのですが、今年は「先輩からの評判を聞いて」という人が15人でトップでした。後で確かめたところ、Twitterなどを使って熱心に後輩に勧めてくれていた過年度の受講生がいたことがわかりました。本当にありがたいことです。

このような口コミ以外の人はシラバスを手がかりに教室に集まってくれているわけですから、自分の書いた文章が学生たちを動かしていると思うと、それはまた手ごたえを感じる話です。ご参考までに、シラバス(授業概要)冒頭のつかみの部分にあたる、「授業の目的」欄では次のような内容を記しています。

教室での講義や演習、課外活動の打ち合わせ、アルバイト先での会議……大学生活は聞いたり話したりの連続です。話を聞いたり、人前で話したり、グループで討論したりといった口頭でのコミュニケーションが効果的にできるかどうかが、大学生活の充実度を左右すると言っても過言ではありません。あなたは人の話を本当にきちんと聞けていますか。あなたの話は相手にうまく伝わっていますか。この授業では、大学生にふさわしい口頭コミュニケーションの技術を、いくつかの要素に分けて順を追ってトレーニングします。それによって、自信を持って聞いたり話したりできる力を身につけ、他者と積極的にかかわる能力を高めます。(北海道大学全学教育 一般教育演習(フレッシュマンセミナー)「聞く力・話す力のトレーニング」2016年度 シラバスから)

抽選に漏れてしまった学生諸君には大変申し訳なく思いますが、先週からは23人のクラスでの授業を行っています。

昨日はこの「聞く力・話す力」の第3回目でした。テーマは文献の使いこなし方。附属図書館のスタッフを講師に迎えて「図書館情報入門」という講義および演習をしていただきました。

聞く力・話す力を高める訓練は、高校までの学習においても正課・課外活動を合わせて、いろいろな形で行われてきているわけですが、この授業全体を通して強調したいのは大学生にふさわしい「聞く力・話す力」のトレーニングです。話す内容を吟味したり、人に話を聞く準備をしたりするために文献資料を活用する能力は、この授業がとくに強調しているポイントです。そうした文献活用の基本を、授業の序盤で学んでおこうという趣旨の一コマです。

会場は、情報端末が設置された演習室です。

授業ではまず、信頼度の高い情報を得る必要性や、情報媒体と信頼性の関係など、情報探索の基本について説明がありました。その上で、CiNii Articlesや附属図書館の蔵書目録などのオンラインデータベースを使って、論文や図書を探す練習をしました。

さらに実践的な演習として、この授業に関係のあるトピック(「非言語コミュニケーション」)について、自分が読みたいと思う論文を探し、オープンアクセスなどでPDFを入手するか、学内図書館での冊子体へのアクセス方法を調べるところまで進む、というアクティビティを行いました(上の写真)。

その後、図書についても同様の文献探索の演習を行い、最後は情報端末室に隣接する北図書館(教育用図書館)の書架から各自その本を探し出し、それを持って図書館内のセミナールームに再集合する、という形で授業は展開しました。書架から短時間で本を探すというのは、我々研究者にとっては日常的な作業なのですが、慣れていない学生にとっては難しさを感じるようで、講師の図書館スタッフとTA、そして私とで、図書館内を巡回し、適宜、学生フォローしました。

制限時間の10分以内で、全員が目当ての図書を手に入れて、図書館内の集合場所に集まることができました。学生同士、ペアを作って自分の見つけてきた本について簡単に紹介し合うワークをしました。

そして、講師の図書館スタッフの方がまとめのコメントを述べたところで、ちょうど時間になりました。

学生の選んできた本をみると、それぞれの興味関心や、読書経験の多寡などもある程度推測できるところがあります。各自が手にしている本をネタにして、さらにもう1時間ぐらいワークショップができそうな感じです。学生たちにとっては、まだ顔と名前が一致しないクラスメートと、本を媒介とすることで、ごく短時間で少し踏み込んだ話をするきっかけがつかめたことが、新鮮な体験だったようです。

こんな魅力的なプログラムを提供してくださった、図書館スタッフの講師とアシスタントの大学院生に、学生とともにお礼の拍手をし、授業を終えました。

連休明けからの授業では、いよいよ、インタビューやスピーチのトレーニングを本格的に進めていきます。