mikami lab.@名古屋大学 大学院環境学研究科 環境政策論講座

名古屋大学大学院環境学研究科 環境政策論講座の三上直之のサイトです。2023年10月に北海道大学から現所属に異動しました。

毎日新聞の書評欄(評者・内田麻理香さん)に取り上げていただきました

先月発売となった拙著『気候民主主義――次世代の政治の動かし方』を、6月25日(土)の毎日新聞朝刊の書評欄で、東京大学内田麻理香さんに取り上げていただきました。

事前に毎日新聞の紙面に次回の書評で扱われる本や評者の予告が出ることもあり、内田さんが毎日新聞で書評してくださるという情報はあらかじめ聞いていましたが、どんな形で取り上げていただくことになるのか、掲載までの数日間、楽しみにしていました。

mainichi.jp

本書の要旨を、とてもコンパクトに、正確かつわかりやすく伝えていただいた上で、「著者自身が携わった二つの気候市民会議の取り組みを紹介しているが、これらの事例から、日本でも確実に気候民主主義の芽が育まれているという希望を見出(みいだ)すことができる」と評していただきました。

これはさすがだと感心するしかなかったのは、最後のパラグラフ。

日本は「自粛の要請」や「罰則化しないがマスク着用を要請」に代表されるような、法的根拠を伴わない、国からのお願いベースで、コロナ禍を乗り切りつつあるように見える。しかし気候変動の危機は、このような「ゆるふわ」運用で対応できる問題ではないだろう。ちょうど参院選も目前だ。今こそ、自分ごととして気候変動と民主主義を両にらみして考え直す、絶好の機会ではないだろうか。

「気候民主主義」という議論がなぜ必要かを、だれもが理解できるパンデミックの経験と結びつけ、明快に論じていただきました。「「ゆるふわ」運用」という表現が何ともいえず絶妙です。記事の見出しも

「ゆるふわ」では対応できない

となっており、これで読者は一発で「「ゆるふわ」だとダメって、何の話???」と引きつけられると思いました。自分も含めて、動物のキャラクターなど「ゆるふわ」系が好きな人は多いので。しかし、気候変動や感染症対策は「ゆるふわ」ではいけません。

記事はウェブ版で拝見しましたが、日本にいる家族から、紙面では読書欄の左肩に大きく掲載されていたと教えてもらいました。

ご書評、本当にありがとうございました。

www.iwanami.co.jp

【NC日記】第2週:2022年6月6日-12日

6月6日(月)

時差の影響はだいぶ緩和されてきたようで、昨夜、遅くまで雑用をして、午前1:00頃に就寝した。こんな時間まで起きていることは、日本でも珍しい。朝はゆっくり起き出して、9:30頃、研究室へ。

11:00からオンラインミーティングが二つ続く。研究協力者として参画を求められている研究費申請についてのブリーフィングと、その後、2020年からボランティアで関わっている、高校生の異分野融合型研究プログラムIHRPの活動打ち合わせ。

合間に、20代の頃、語学留学したバンクーバーで知り合って以来、四半世紀近い付き合いになるドイツ・ブレーメンの友人、Jensとチャットでやりとり。9月にニューカッスルに訪ねて来てくれるということでスケジュールを相談する。そのやりとりをしている過程で、彼の唯一の身寄りであるハノーファーのおばさんが、今年、80歳を迎えるそうで、もし私がドイツに来ることがあれば、ぜひまた合わせたいという話も出る。おばさんとは、大学院の6年目の2004年、会議出席でスウェーデンイェーテボリに行った帰りにJensを訪ねた際、一度だけ会っている。このときは私自身、先の見通しが全くないまま博士課程4年目に突入した春の一人旅で、今では最も思い出深い旅の一つになっている。

9月下旬にDemocracy R&Dの年次総会に出席するためベルリンに行くことになっている。その前後に休暇をとって、ハノーファーに立ち寄るのはどうか、ということで話がまとまった。

長年の友人やそのおばさんと再会できそうだというのは何とも心踊る話だ。今回、イギリスに1年間行ってしまうということで、出発前の1カ月ほど、家族や友人、ゼミの仲間などと一緒に食事をしたり、外出したりといったイベントが続いた。直接会えない人とも、メールやSNSでさかんにメッセージを交換したりした。いずれも心が満たされる時間で、今回のイギリス行きで一番良かったことは、Jensやおばさんとの再会も含めたこの種のことだったかもしれないとすら思っている。と同時に、こうして会ったり、ことばを交わしたりした(する)人たちと、次に会えるのはいつだろうかといったことを考えてしまい、なんとも言えない気持ちになる。

昼食はいつもの通り学食で。午後は、翌日の大学院ゼミで新たに読み始めるバーガー&ルックマン『現実の社会的構成』(The Social Construction of Reality)の予習。担当部分である序論のレジュメを黙々と作る。

レジュメをほぼ完成させて、夕方はメトロを使って中央駅へ。週末のケンブリッジ行きのチケットの受け取り+購入。行きのチケットはネットで無事に購入できたのだが、帰りの分がうまくいかなかったので駅に行くことにした。駅ですんなり受け取りと購入ができ、ひと安心。このあたりのことに慣れるのには、もう少し時間がかかりそう。

メトロを使う用事は一日券があると効率的なのでまとめて、ということで、前日日曜日、午後4時の閉店間際に行ってゆっくり見ることができなかった郊外スーパーにもう一度行ってみる。満を持して売り場を見てみたが、前日を超える収穫はなかった。

晩ご飯はスーパーで買ってきた二切れ入りの鮭の切り身と、カリフラワーなどの野菜を焼いてみる。まずまずの出来だが、宿舎のキッチンにある共用のフライパンはかなり使い古されていて、焦げ付いてしまうのが難点。フライパンは早めに個人用を買ってくるべきだと思う。同じフロアのフラットメートもそうしているみたいだし。

6月7日(火)

昨日は夜10時頃に布団に入って、朝5時半までほぼ熟睡した。出発前いつ頃まで普通に睡眠がとれていたか、記憶が定かでないのだが、これだけまとまった時間、ぐっすり寝られたのは少なくとも2週間ぶりだろう。

朝起きてメールをチェックしたところ、編者を務めているもう一つの企画について、前日依頼を送った著者候補の方から承諾の返事が入っていた。これは何の企画なのかというと、今年度、国立国会図書館の委託で「科学技術のリスクコミュニケーション」をテーマとして、主に国会議員向けの報告書を作成する仕事を請け負っている。出発前の4月上旬頃から、あれこれ試行錯誤しながら構成を考え、依頼を進めてきたが、ようやく9割方、固まりつつある。

7時半に出勤し、ゼミで読むバーガー&ルックマンの予習の続き。11時からゼミ。

午後は、学内に新たに立ち上がった "Centre for Climate and Environmental Regilience" という分野横断のセンターの設立記念セミナー。工学系や自然科学系のほか、人文社会系の研究者も参加して、各自の研究についての報告と、ディスカッション。私の共同研究者のスティーブンも、自らが関わっているイギリスでの気候市民会議について、パネルディスカッションで話題提供していた。終了後のティータイムに、何人かの研究者と立ち話。地元の市役所での動きなど、いくつか参考になりそうな情報を聞く。このようなイベントがオンラインではなく、対面で行われるようになっているのは助かる。人が集まるところにはなるべく顔を出していくようにしたい。

6月8日(水)

昨日も10時頃に就寝し、5:40起床。午前3時に目覚めてからはあまり熟睡できなかったが、ペースはつかめつつある。いつもの学食が8時から朝食を出していることに気がついたので、今日は朝食は学食で食べることに。少しのんびりしているうちに時間がたってしまったが、6:50には研究室へ。出発前から遅れていて懸案になっている原稿(本当に申し訳ありません m(_ _)m)を進める。

8:00から週に1度の研究室のスタッフとのZoomミーティング。今日はSさんがお休みなので、Knさんと一対一で。この在外研究のための長期出張の手続きに関することで、諸々打ち合わせ。郵便物は一時に大量に届くことがあると処理に困るなと思っていたが、Knさんからの報告では、今週は2通のみとのことで、ひとまずホッとする。

その後、午前中は、国会図書館の報告書作成について、総勢十数人の分担執筆者への依頼状と、執筆要項などの依頼文書を、スタッフのKrさんが用意してくれたドラフトをもとに完成させる作業。細かいところに気を使わなければならない作業で、仕上げにまとまった時間が必要であることはわかっていたので、この日は先週から空けておいた。なんだかんだと試行錯誤し、4時間半かかったが完成した。ものにもよるけれど、仕事を完成させるには、ある程度まとまった時間を確保する覚悟が必要だ。

大学内の生協の購買に初めて行ってみた。生鮮食品も含めてかなりの品揃えで、立派なスーパーマーケットである。これからはここも利用しよう。軽く買い物をして宿舎に戻って昼食。宿舎と研究室が至近距離なので、一度、宿舎に戻って昼食を食べるという技が使えるのが助かる。

16:30から、ハドリアヌスの陸橋のすぐ左手にある、大学博物館へ。その晩のことはFacebookに投稿したので、そのまま引用しておく。

今日はこちらに来て初めての飲み会でした。イギリスの大学では、夏休み前のこの時期(または新学期が始まる直前)にAway Dayと言って、学科や講座のスタッフが1日職場を離れて、教育や研究の長期的な戦略について議論する会議が行われるのが一般的だそうで、今日は政治学科のAway Dayが大学博物館で行われたのでした。私は昼間のAway Dayそのものには参加しなかったのですが、みんなと知り合ういい機会だということで、夕方から飲み会に誘ってもらい、参加してきました。政治学科のスタッフにとっても、みんなで集まるのは3年ぶりということらしく、なかなかの盛り上がりでした。人が集まって何かするときに起こることは、所変われど意外と共通しているということが発見できた夕べでした。詳しくはまたブログの方で書きます。明日は朝8時(日本時間16時)から仕事(TДT)ですので、今日はこのあたりで。おやすみなさい。(6月8日 22:32)

イギリスでは最近、Research Excellence Framework (REF) による、全国157大学を対象とした7年に一度の研究力評価の結果(REF2021)が発表された。

www.ncl.ac.uk

ニューカッスル大学の政治学・国際関係論分野は、研究成果のうち38%が最上位の4点(world leading)、41%が3点(internationally excellent)という結果で、平均点も7年前の2.62から3.03に上昇するという飛躍ぶりだった。

政治学科の外部研究資金の獲得金額は、この7年間で4倍近くに増えた。スタッフの数も、任期付きの若手研究者を中心に倍以上に増加したという。

私としては、学科が勢いづく絶好のタイミングでお世話になることになったわけだが、このように急成長している組織では、マネジメント上、色々と難しいことも出てくるようである。博物館でのワイン会の後、連れ立って行ったパブでの若手・中堅スタッフの主な話題は、この先の学科の運営についてのことだった。私としては事情がよく分かっていないのと、英語の問題もあり、理解できない部分も多かったが、雰囲気はよく理解できるし共感できる部分が多かった。内輪のごちゃごちゃな話を聞かせてすまないと……みな口々に詫びてきたが、スティーブンや、同室のソラナ以外のスタッフとも少し距離が縮まった気がして、改めて懇親会も大事だなと思った。

6月9日(木)

午前中はスタッフのKrさんとZoomでつないで、昨日仕上げた国立国会図書館調査の原稿依頼状の読み合わせ。その後、10:30(日本時間18:30)から実施専門部会員として企画を担当している北海道大学公開講座(全学企画)の第1回目が開かれるので、Zoomウェビナーで傍聴した。

この日のお昼の出来事を、翌朝、Facebookに投稿したのがこちら。

昨日、昼食に出るのが遅くなり学食の定食が終わってしまっていました。天気も良いので、サンドイッチを買ってこの芝生の中庭に出てみました。 ベンチに腰掛けると、庭の片隅に桜の巨木があることに気がつきました。こちらで例年いつ頃桜が開花するのかは今度同僚に聞いてみようと思いますが、来年この木に満開の花がつく時期には、「ひと仕事終えた〜〜」という感じになっていられたらなと思っています。(6月10日 7:39)

写真中央が桜の木。左手の建物が旧図書館棟で、半円型の部分がいつもお世話になっている食堂

こんなことを書いたのには実は理由がある。日本から引きずってきている仕事に追われつつも、それと並行して、今週はイギリスでのこの先1年間の活動についても、じっくりと考える必要があった。というのも、10日(金)午後にスティーブンと初めての本格的な研究打ち合わせをすることにしていたからである。

『気候民主主義』にもいきさつを少し書いたけれど、この在外研究は2020年4月から1年間の予定で行うはずだった。が、新型コロナのパンデミックでそれが延期となり、もともとはイギリスで勉強してきてからやるはずだった札幌での気候市民会議も、日本語での単行本の出版(→『気候民主主義』のこと)も、順序を入れ替えて、先に行う展開になった。この渡航のための研究費を獲得する申請は、4年前の夏に行ったのだが、その時とはあらゆることが変化していて、1年間の滞在で何をやるべきかは改めてよく考えて、整理し直さなければならない状況になっていた。

今週はこの作業を、頭の片隅でやりつつ他の仕事をこなしてきた。といえば格好良いが、ずっと気にはなりながらも、これについてじっくりと考える時間を昨日までとれずに、スティーブンとの打ち合わせの前日を迎えてしまった、というのが実態である。

この4年間の経験、とくに2020年以降の2年間の動きを踏まえて、やりたいこと、やれそうなことの材料は色々とあるのだが、それをどう組織化して優先順位をつけ、1年間という限られた時間で、何をどのように進めたいのか。自分自身の中で考えをきちんと整理する必要があるし、それを共同研究者であるスティーブンにも、このタイミングでどうしてもわかりやすく伝えたい。

そこで午後から翌10日にかけては、ほぼこの作業に集中することにした。

夕方、ショッピングセンターのスーパーで、20ポンド近くはたいてきちんとしたフライパンを買って帰り、鮭の切り身のもう一切れを使ってチャーハンを作る(ご飯は例のレトルトが活躍)。フラットメートの中国人が美味しそうだねとのぞきこんできたので「我喜欢吃炒饭」とか答えたりして、ずっと怠けている中国語の練習をしてみたり。

6月10日(金)

朝いちで、国会図書館の最後まで残っていた一部の章の著者(候補)の研究者とZoomでお話しし、参画をお願いする。メールのやりとりではお引き受けいただけるかがまったくわからない雰囲気だったのだが、かなり積極的に快諾を頂けた。これで報告書の構成は、ほぼ固まった。

その後、昨日から続けている、イギリスでの活動計画づくりの作業に戻る。どうにか整理がつき、スティーブンに読んでもらうレジュメにまとめ始めたら、新しいいのちが生まれるように一気に組織化されだした。イギリスに渡航するための事務的な作業は今年に入ってから、集中的に進めてきていたが、渡航して何をやるのかはまともに考えることができず、頭の片隅にすっきりしないゾーンを抱えたような状態だった。その部分の霧が一気に晴れたような気分であった。中身については改めて書く機会もあると思うので、省略。

午後2時からスティーブンと40分ほど打ち合わせ。自分の中で納得がいく形で整理をし、優先順位を付け直していたので、スティーブンにもすんなり伝わり、とにかく仕切り直して一緒に頑張っていこうということになった。

だいぶ気分が軽くなって宿舎に戻り、週末の出張の荷物を準備して出発。夕方の汽車でケンブリッジへ。

6月11日(土)

ケンブリッジ大学で、学生が主催するCambridge Climate Sustainability Forum 2022というイベントを、土日の2日間聴講。A Climate Resetが全体のテーマで、気候変動対策のDecolonizationとか、エコサイド(環境破壊罪)をめぐる議論の最新動向とか、ケンブリッジでの気候変動をめぐるアクションなど、気になるテーマのパネルディスカッションが続く。ケンブリッジで客員も務めているYさんに教えてもらい参加したのだが、イギリスに来てすぐのインプットとしては、ぴったりの内容だった。

6月12日(日)

イベントは午前中で終わり、帰りの列車までの間少しだけ、ケンブリッジのまちを見て回る。「2〜3時間の滞在時間でここはぜひ見ておくべきというところがあれば教えて」という私の問いかけに、これもYさんが勧めてくれた、Kettle's Yardというギャラリーを見学。

あるキュレーターの自宅兼オープンスペースだった住宅が、今はケンブリッジ大学に寄贈されてギャラリーになっている。ギャラリーでは、中国出身で現在はドイツ在住の現代美術家艾未未アイ・ウェイウェイ)の作品展が開かれていた。

Kettle's Yardで開かれていたアイ・ウェイウェイの作品展

住宅だった部分は、インテリアもそのままに保存されていて、見学できるようになっている。

元オーナーのJim Ede氏は"Do come in as often as you like - the place is only alive when used." ということばを残しているとのことで、このKettle's Yardも1950年代に建てられた当初から、サロン的に学生や地域の人たちに開放されていたという。

入り口に掲げられた元オーナーJim Ede氏のことば

スタッフのホスピタリティも素晴らしく、ずっとのんびりしていたくなるような、本当に気持ちの良い場所(ambience)であった。

夕方の列車でニューカッスルへ帰る。ぎりぎり明るいうちに帰り着くことができた。まだ住み始めて2週間なのに、すでに「帰ってきた」というホッとした感覚が生じることに驚く。17年前に千葉から札幌に引っ越してしばらくの間、道外への出張からの帰途、快速エアポートで札幌駅に近づくと「帰ってきた」と感じることを、どこか不思議に思っていた。頭のどこかで「北海道は旅行で来る所だ」と考えているのに、心や体は「帰ってきた」と感じて、確かにくつろいでいる。忘れていたあの感覚を、こんな形で久しぶりに味わうとは思っていなかった。

【NC日記】第1週:2022年5月30日-6月5日

5月30日(月)

イギリスと日本との間には9時間の時差がある。現在は夏時間のためそれが1時間縮まって、8時間の時差。つまり日本の午前9時がこちらの午前1時であり、日本で人々が活発に動いている昼間の時間帯は、ちょうどこちらが眠っている時間ということになる。

日本とイギリスとでZoomなどで打ち合わせをしようと考えると、日本の午後4時-6時頃が、こちらの朝8時-10時にあたり、ちょうどいい(それでもこちらはちょっと早起きしないといけないのだけれど)。が、この「ちょうどいい」時間(私は「プライムタイム」と呼んでいる)が1日のうちに2時間程度しかないので、日本とのやりとりはなかなかしんどいことになる。

今日はそのプライムタイムの2時間は、欧州気候市民会議に関する毎月1回のチーム会合だった。この会合は、普段からリーダーの森秀行さんがいる地球環境戦略機関(IGES)の東京オフィスとオンラインでつないで参加しているもので、イギリスにいるからといって参加の仕方が変わるわけではない。時間帯は午後4時から6時に固定されていて、たまたまプライムタイムに当たっていた。今日は宿舎から参加した。

ミーティングの後、大中小と3つ持ってきたスーツケースのうち、約35Lの小さいものに本やパソコンのディスプレイなど、研究室で使うものを詰めて研究室へ。

午後、出発前から持ち越してきたいくつかの仕事をこなす。先週の日記に書いた環境社会学のものとは別に編者を務めている新しい企画があり、その依頼など、やや神経を使う仕事が続く。出発前後、そのような集中をできる時間を確保することが難しく、後回しになっていた。およそ1週間ぶりに、イギリスに場所を移して仕事場のデスクに落ち着くことができたので、午後の3時間ほど集中して進めた。

研究室は、ルーマニア出身のポスドク、ソラナさん(国際政治)との相部屋である。オンライン会議などの時はこの部屋ではできないので、同じフロアの会議室に移動することになる。これまでこの部屋を一人で使っていた彼女にも負担をかけることになり、やや心苦しい感じ。

部屋の予約は、学科のフロアにあるゼミ室的な部屋に至るまで、すべて全学的な予約システムを使ってオンラインで行うしくみになっている。このあたりもデジタル化が徹底している。ソラナさんが、予約システムの使い方を教えてくれた。

街中のショッピングモールの中のスーパーが午後6時に閉まるので、当座の食料を調達するため5時半頃に研究室を出た。大急ぎで買い物を済ませて部屋に帰ったら、時差の影響がまだ強く、夕食を食べる元気もなく19:30頃眠ってしまった。

5月31日(火)

早く寝たので当然のように夜中に目覚めたのだが、このまま起き出して仕事をしては、時差の影響を引きずったままになると思い、5時頃まで布団の中に。日付が変わってからは熟睡はできなかったが、睡眠時間はそれなりにとれたと思う。

5時過ぎに起きてメールを開くと、日本で続いている仕事でリモートでの対応が必要なものの一つに関して、いくつか急いで対応すべき事態が発生しているとのメールが同時に複数入っていた。それぞれそれなりに神経を使う話で、急を要する案件でもあり、朝6時前からメールで対応を始めた。

8時間の時差があるので、こちらが朝起きると、その日1日の日本から届いたメールが返事を待っている、という状態になる。それに対応してから、こちらでの仕事を始めるということになるので、これはペースがつかめるまではなかなか大変そうだ。この程度は甘いものだと思うが、思わず駐在員や特派員の人たちの仕事の大変さを想像した。

昨晩は夕食を食べずに寝たので、宿舎のキッチンで朝ご飯を作って、しっかり食べてから出かける。

共用のキッチンで朝食

じつは昨日、先週のうちに発行してもらった職員証(兼カードキー)に研究棟への時間外アクセスの権限が付与されていなかったり、私のIDで予約システムにログインして部屋を予約しようとしても、政治学科のフロアの部屋が候補として表示されなかったりと、ITシステム上の権限のセットアップが不十分なことが判明していた。

メールなどでやりとりするだけではらちが開かないので、この日出勤してすぐの仕事として、ITデスクに電話して事情を説明して対応をお願いした。ネイティブスピーカーに早口でまくしたてられるという、なかなか厳しい状況になったが、ともあれ必死で対応する。並行して、この日すぐに必要な部屋は、同室のソラナさんに頼んで予約してもらった。

その部屋を使って、11:00(日本時間19:00)から大学院のゼミをオンラインで。博士の二人の研究報告。少し延長して、13:20頃終わった。昨日に引き続き、隣の建物のカフェテリアで昼食。ワンプレートだが、ボリュームのある温かい食事が5ポンドで食べられるというのはありがたいが、5ポンド=800円強なので、学食での1食分としては結構いい値段という気がする。

ある日の学食でのランチ

午後、〆切を大幅に過ぎてしまっている雑誌原稿に、ようやくとりかかる。間が空いてしまったので、サクサクというわけにはいかなかったが、夕方まで集中して色々と考え、ひとまずこの原稿に頭を戻すことはできた。

時間外の研究棟への入館や、部屋の予約の権限など、IT関係の問題は、この日のうちにすべて解消した。このあたりの対応は、非常に迅速で助かった。

6月1日(水)

昨日、時間外アクセスが可能になったカードキーを使い、7:30に出勤。毎週水曜日、日本時間の16:00-18:00の間に、日本の研究室のスタッフとZoomで連絡を取ることに決めていて、今日はその初回である。8:00(日本時間16:00)から一つ、9:00(同17:00)からもう一つ。

その後、編者を務めている新しい企画の依頼の続きなど。出発前の予定をぬって、ここ1か月以上、苦しい状態が続いてきたが、あと一息、気の抜けない調整が続く。

午後、3日連続のカフェテリアでの昼食の後、同室のソラナさんとお茶に出かける。これから一緒に仕事をすることになるので、早いうちに話しておければと思い、誘ったのだった。1時間ほど、お互いの経歴などについて雑談。とても良い時間だった。研究室に戻って、雑誌原稿の続き。

6月2日(木)

今日も朝5時頃に起床し、6時から日本と打ち合わせ。編者を務めている新しい企画の著者(候補)の研究者と、Zoomで原稿依頼のお話。ありがたいことに快諾いただく。

その後、朝食と出発の準備を済ませて、9:00前に研究室へ。エリザベス女王の即位70年(プラチナジュビリー)を記念した祝賀行事があるということで、今日から日曜日までイギリスは4連休。快晴で気持ちがいい。大学は閑散としている。

9:00(日本時間17:00)から上述の新しい企画の件で、原稿整理のサポートをお願いするYさんと、スタッフのKrさんの3人で打ち合わせ。Krさんの的確な準備で話がスムーズに進む。Yさんも自身の研究が山場を迎え忙しい中、力を貸してくれることになった。分担執筆者への原稿依頼はまだ不透明な部分が残るが、一歩ずつ前進しつつある。

一息入れてから、原稿に戻る。

午後遅めの時間(日本では深夜)に、家族と久しぶりに時間が合い、電話で話す。こちらの夜は向こうの早朝で、向こうの夜はこちらの午後〜夕方の忙しい時間だったりということで、家族と電話するのも、平日はなかなか時間を見つけるのが難しそう。

6月3日(金)

今日は久しぶりに朝予定が入っていない日で、だいぶ余裕があった。日本時間の16:00-18:00にあたる「プライムタイム」に予定が入っていると、朝かなり慌ただしくなる。この時間帯の使い方がポイントだということが、1週間過ごしてわかってきた。

プラチナジュビリーの連休2日目ということで、大学はいよいよのんびりした雰囲気。昨日まで1週間、毎朝、宿舎を出て24時間営業の図書館の前を通り、「ハドリアヌス帝の」という名前のついた陸橋(Hadrian Bridge)を渡って、研究棟まで5分ほどで着く最短ルートを使ってきた。が、今日は余裕があるので、ハドリアヌスの陸橋を渡ってから右にそれ、少し寄り道をして研究棟へ。

Hadrian Bridge

別のルートを通ることで、研究室から見える建物の位置関係なども体感できた。朝の「プライムタイム」をはじめとして、時間の使い方はしばらく試行錯誤が続きそうだが、徐々に環境になじめてきた気がする。今日もとても天気が良く気持ちが良い。

夜は、札幌の自宅を出る時、荷物に突っ込んできた残り物のカレールーを使って、カレーライスを作ってみた。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、鳥のむね肉は、スーパーで比較的安価で手に入った。米はまだ手に入っていなかったのだが、街中のスーパーにインディカ米のレトルトご飯が1袋50ペンス(約85円)で売っているのを見つけ、この値段ならば、ということで失敗覚悟で買ってみた。これがカレーに良く合って、とてもおいしい(お土産に買って帰りたいぐらい)。いずれは米を買ってきて鍋で炊こうとは考えていたのだが、ご飯はこれでもいいのかもしれないと思うおいしさだった。

6月4日(土)

今日は研究室には行かず、宿舎で肝心の原稿の続きや、読書など。

7月の読書会の課題図書であるアンドレイ・クルコフウクライナ日記 – 国民的作家が綴った祖国激動の155日』を読んでいる。最初、2014年に出版されて翌15年には邦訳が出ていて、このたびのことで今年4月に増刷された本。まだ電子書籍になっていないようで、出発直前にイギリスに持って行く本のリストに加えた。手元にある限られた日本語の本のうちの1冊という意味でも貴重な本なので、7月まで繰り返し、じっくりと読みたい。

原稿が煮詰まってきて、午後少し図書館へ。連休中のためか、大賑わいという感じではないが、勉強している学生はそれなりにいる。図書館にはこれまでにも来たことはあったが、これから1年間お世話になるということで、3階の社会学政治学の開架の棚を初めて一通り眺めてみた。書庫が別にあるのかなど、まだよくわかっていないのだが、開架の棚には教科書や基本書のような本が多く、複本が多数(ものによっては10冊以上も)あるものが目立つ。

晩ご飯は、昨日カレーを作った残りのむね肉と、これも札幌の自宅から持ってきた残り物のキューブ状の鍋スープを使っての鶏鍋。ブロッコリーやにんじん、マッシュルーム、ネギなど、スーパーで手に入る野菜をたっぷり。そして、例のレトルトご飯で、〆の雑炊も作ってみた。インディカ米の雑炊って初めて食べたけれど、なかなかいける!

インディカ米で〆の雑炊を

6月5日(日)

今日も宿舎で過ごす。宿舎が入っているのは、英語で「テラス」と呼ばれる長屋形式の建物で、地上3階・地下1階建て。私が住んでいる区画には、自分の部屋も含めて計13室があり、すべてがニューカッスル大学のビジター用の宿舎として使われている。同じテラスの他の区画は、民間のオフィスや、ロースクールの校舎として使われているところもある。少し調べてみたところ、このテラスは1870年代に建ったものらしい。キャンパスのこのあたりには、19世紀に建ったテラスが軒を連ねている。古い建物は日本にもたくさんあるけれど、100年以上も前に建った建物で暮らすというのは初めてで、これも何とも貴重な体験だと思う。

同じフロアには居室が4室。他の3室は、工学部の中国人の男性が二人(一人は土木、もう一人は流体力学が専門)と、ここの医学部にインターンシップに来ているというオーストリア出身(大学はドイツ)の医学生の女性。

ウクライナ日記』は読了した。雑誌原稿も引き続き頑張るが、やや壁にぶつかりつつある。

遅い昼食の後、気分転換も兼ねて外出。最寄りのメトロの駅から、市街地とは反対方向、すなわち空港の方へ向かって数駅の所にある安売りスーパーへ。土木の中国人が教えてくれた、いくつかのスーパーチェーンの一つである。ネットで様子を調べてから行ったのだが、食料品だけでなく日用品や家電関係も扱っていて、宿舎の部屋にあると便利な細々としたもの(例えばこちらの電圧に合うテーブルタップなど)が見つかって助かった。

便利そうなものが色々とあるなぁと店内を物色していると、突然、照明が暗めに。「4時で閉まるよ」(たぶんそう言っていたはず(笑))と、店員さんに声をかけられ、あわててお会計。日曜日はスーパーはかなり早く閉まるのですね。

もう少し宿舎に近いところに、平日は夜10時まで空いていて、今週2度ほどお世話になったスーパーがあるのだが、帰りに前を通ってみると、ここも5時で閉まっていた。

【NC日記】第0週:2022年5月23日-29日

5月23日(月)

出発直前まで普通に仕事が入っている。午前中は脱炭素化技術ELSIプロジェクトの進捗報告会にオンラインで参加。江守正多さんを始めとするプロジェクトメンバーがほぼ全員揃い、プログラム側からはアドバイザーのお二人と、事務局の方も参加し、進捗報告と意見交換。午後は荷物の準備をしていたような気がするが、これを追記している6月4日時点で、すでに記憶が曖昧。やはり日記は毎日つけるべきもの(笑)。

5月24日(火)

荷物の準備。前々から調達してあった約100Lと約60Lのスーツケースを持っていくことは確定(約100Lのはすでに21日(土)に先に羽田のホテルに発送済)として、残りは5年以上前から使いなれている約35Lのもの一つで済むのか? たぶんそういうわけにはいかなそう……ということで、「三つ目のスーツケース」をどうするのかが検討課題に。

35Lさんには残念だが留守番してもらうことにして、新たに60Lクラスのものを購入すれば荷物は収まりそうだ。しかしイギリスで短期の出張に出る時は、35Lさんにいてもらった方が助かる。時間がないので焦りつつ、あれこれ考えるうちに、全ての荷物をスーツケースに収める必要はないと気づいた(いつものことだが気づくのが遅いwww)。自宅から新千歳空港と、ニューカッスルの空港からホテル、そしてその後宿舎までは、すでに荷物が多すぎて鉄道は利用できない。どちらもタクシーを利用するしかない。であれば、残りの荷物は35Lと段ボール箱に分けて詰めて、荷物を4つにすればいいのではないか。超過手荷物の料金が1個分増えるのは痛いが、今後あまり使い道もない中型のスーツケースを一つ買うよりも合理的だし、何より35Lさんを連れて行くことができる。

結局、荷物は大中小のスーツケース3個と、自宅にあった段ボール箱1個の計4つとなった。これに加えて、機内に持ち込む荷物として、パソコンやタブレットなどの機械類や手回り品を、普段使っているリュックと、翌日に新千歳空港で調達したトートバッグに分けて詰めた。これらも合わせると合計6つのカバンと箱になった。

午後は研究室(自分の居室)の掃除。もともと大して散らかっているわけではないが、1年間留守にする間に、同僚に中に入ってもらう必要も出てくるかもしれない。そのときに困らない程度に、汚れの目立っていた床の拭き掃除などを少々念入りに。夕方少しだけ時間ができたので、スタッフのKrさんと、出発前最後の打ち合わせ。とはいっても留守中の諸々はすでに相談済みで、実質は、掃除をしているうちに「1年間ここを留守にするんだなぁ」と思い湧いてきた不安を紛らわすため雑談に付き合ってもらった、というところなのだが。おやつを食べながら荷造りの顛末(草)などを聞いてもらい、だいぶ気分が落ち着いた。

夜は毎週定例の大学院ゼミ@オンライン。『社会科学の哲学入門』の3回目。第5章〜終章を博士課程の二人と私の3人で分担して報告し、読み終えた。出発前にちょうど終えられてよかった。

5月25日(水)

いよいよ出発の日。冷蔵庫の中の残っていた食材を、朝食で使い切り、冷蔵庫の電源を落とし、午前中は荷物の最終チェックと部屋掃除。

冬を越すので、出発直前には水道の水抜きを完全にしないといけない。水抜き自体は普段から冬場に帰省や出張で数日以上家を開けるときにはやっていることであり、今回初めての経験ではない。しかし北国生まれではない私には、何度経験しても「身についていない」感じがする作業である。また今回は、夏場も含めて1年間、留守にするので、水道管から水を抜くと同時に、排水溝に残っている水が蒸発しないようにする必要もある(→この水は凍らないのかしら?という疑問はあるのだが)という管理会社の指示で、部屋にある全ての排水溝(トイレの便器も含む)にラップをかけるという作業があった。

というわけで、この水落としの工程には時間がかかりそうなので、予約してあった空港行きのタクシーが迎えにくる15:30から逆算して、14:00に始めることにした。あまり早くやりすぎると、水道やトイレが使えないまま長時間過ごすことになり苦しいが、ぎりぎりに始めると間に合わなかったり、焦って失敗したりしかねないので、ということで、14:00スタートに決めた。

昼ごはんはスーパーで買ってきた弁当で済ませた後、いよいよ水抜き作業。排水溝をふさぐ工程も用意しておいた養生テープと、食品ラップを使って、わりとスムーズに済んでしまった。15:00には無事に終わってめでたしめでたし……だったのだが、最後にトイレでラップを張る作業をしていたせいなのか、すべてを終えたあたりで、トイレに行きたくなってしまった。近所のコンビニにでも駆け込むことも考えたが、そこまで急を要してはいなかったので、ガマンwwwすることに。

タクシーはありがたいことに10分早く15:20に来てくれた。時間に余裕はあるのに、6つの荷物を急いで積み込み、家の施錠だけは念入りに確認し、いざ出発。してすぐに

:では千歳空港までですね。(最寄りの)〇〇インターから高速に乗って行きます。

:インターの前に、まずはトイレに行ってください。

という謎の会話になったものの、運転手さんは嫌な顔ひとつせず、コンビニに連れて行ってくれた。

ところで、今回、羽田からロンドンに飛ぶ便は、もともと26日の11:20発の予定だったのだが、ロシア上空を迂回するルートをとる必要がある関係で、出発が2時間以上繰り上がって、9:00発となった。そのため25日に東京に前泊する必要が生じ、25日の夕方に千歳から羽田に移動することになったのだった。

そのことを知った高校時代からの友人K君が、他の新聞部の仲間にも声をかけてくれ、K君のお連れ合いのMさんも合わせて、なんと7人が蒲田に集まって激励の会を開いてくれたのだった。このメンバーがリアルに集まるのは、2020年1月の新年会以来だった。

羽田空港に出迎えてくれた娘(東京在住)を連れて、蒲田のお店へ。すでに宴は19:00頃から始まっていて途中から合流する形になったが、出発の前夜に約2年半ぶりに三十数年来の旧交を温めるという贅沢な時間をプレゼントしていただいた。都合がつかなかったKさんも、LINEを通じてメッセージを送ってくれた。K君とMさん、新聞部の皆さん、ありがとう!

5月26日(木)

25日は、国際線ターミナルの中のホテルに泊まった。早朝にもかかわらず、東京と千葉に住んでいる妻と義母が、それぞれ始発のバスで来てくれ、見送られて出発。ちなみに、手荷物はいずれも23kgの重量の範囲内には収まっていたのだが、個数が2個オーバーということで、20,000円×2=40,000円也の超過料金となった。

超過料金の計算に航空会社の側での手違いがあって、少しチェックインに手間取ったが、出国手続きなどは至ってスムーズだった。トラブルなく搭乗でき、予定通り9:00にロンドンに向けて出発。

約14時間半のフライトでロンドンに到着。長かった〜〜〜〜けれど、通路側の席で、自分の隣席も、通路を挟んだ反対側の席も空席だったので、広々としていてそこまで苦痛ではなかったのはラッキーだった。出発前から寝不足が続いていたので機内で寝られるかと思っていたが、ほとんど眠ることはできず、主に仕事をして過ごした。

写真は機内のフライトマップから。こんなふうにロシア上空を回避して北東周り?でかなり北の方を飛んでいったようだ。

機内のフライトマップから

スマホがすぐに使えるかが不安だったのだが、SIMを日本で購入して、あらかじめオンラインでアクティベートしておいたので、ヒースロー空港に着陸して、駐機場に着くまでの間に開通してすぐに使えるようになったのは助かった。

夕方の便に乗り継ぎ、最終目的地のニューカッスルへ。少し出発が遅れたが、20:00過ぎに到着。夏時間ということもあり、まだとても明るい。とりあえず今晩はニューカッスルで定宿にしている市街地のビジネスホテルまで、タクシーで移動。ニューカッスルに来るのは、これがたぶん5回目だが、空港からタクシーを使うのは初めてだった。

6つの荷物とともにニューカッスル空港に到着

5月27日(金)

時差の影響が強く、それでも何とか眠ろうと努力して、朝4時(日本時間の正午)頃起床。4月から5月にかけて、著書『気候民主主義』の刊行や、今回の渡航の準備のために放置してしまっていた仕事を、挽回していかなければならない。手始めに、一昨年から編者として準備に参加している環境社会学の新しい講座シリーズ(2022〜23年にかけて全6巻が新泉社から刊行予定)について、著者から預かっている原稿を検討してコメントを返す作業を、ほぼ1か月ぶりに再開。その後、ホテルのレストランでイギリス式の朝食をしっかりとる。

午後、大学へ。ニューカッスル大学での居場所は、School of Geography, Politics and Sociology(GPS)の中のDepartment of Politics。ここに1年間、客員として置いていただく形になる。政治学科での受け入れ研究者であり、共同研究者であるStephen Elstubさん(英国政治・熟議民主主義論)と、2年半ぶりに再会した。

その後、宿舎の事務所へ行き、鍵を受け取ってホテルから宿舎へタクシーで引っ越し。キャンパスの北東の端にある、ビジターの研究者向けの宿舎。通りを挟んで向かいには同じ名前の学生寮がある。

学生寮やビジターの研究者用など、キャンパスの色々なところに宿舎が点在しているようだが、私の宿舎は、地下から3階までの4フロアに13室があり、私は2階の北東向きの部屋を割り当てられた。窓からは一面、木々の緑が見え、鳥のさえずりが聞こえるという乙な環境。札幌のマンションも、通りに出ればすぐに山が望めて、環境は決して悪くはないのだが、部屋の窓からは緑が全く目に入らず、時々寂しく感じることがある。それに比べると、ここは素晴らしい。他方で、キャンパスの外縁に沿って走る幹線道路の車の音が大きめだが、これは札幌の家でも同じようなもので、すぐに慣れるだろう。

宿舎の自室からの眺め

宿舎の外観はこんな感じ

メールと電話で進めていたITのセットアップも夕方までには済んで、ニューカッスル大学でのメールアドレスも使えるようになった(日本との日常的な連絡は、これまで通り北大のアドレスを使います)。荷物の移動や、宿舎のことなど、不安要素がほぼすべて片付いてしまい、ホッとしたら急に疲れが出てきた。食材を買い出しに行く元気がなく、外で食事を済ませて部屋に戻り、21:00頃から3時間ほどは熟睡。その後は、時差の影響もあってあまり眠れず、明け方に2時間ほど眠った。

5月28日(土)

まだ何も食材がないので、朝は近所のカフェで朝食をとり、そのまま宿舎の部屋で使う日用品や、当座の食材の買い出しに出かける。時差の影響が大きく、たしか晩ご飯は食べずに眠ったのではないかと思う。マグカップが手に入るまで、研究室(論文ゼミ)の皆さんが送り出しの会の時にプレゼントしてくれたタンブラーが部屋で大活躍。自宅での使い残しのコーヒーやお茶などはまとめて持ってきたが、これらも重宝している。

論文ゼミの皆さんに頂いたタンブラーが大活躍

5月29日(日)

前日に引き続き、宿舎での生活のセットアップ。宿舎の中にあるコインランドリーを使って洗濯もした。「コイン」とは言っても、現金は使わない。クレジットカードを使ってネットで課金した上で、スマホのアプリで洗濯機に表示された二次元バーコードを読み取って支払い、洗濯機や乾燥機を動かすというしくみ(我ながら要領を得ない説明だが、要はそんな感じのシステムです!)。

www.circuit.co.uk

イギリスでは日本以上に、キャッシュレス化、デジタル化が進んでいる印象がある。スーパーやカフェなどでの日常の支払いは、クレジットカード*1が中心。それも非接触決済(コンタクトレス)がほぼデフォルトのような感じになっていて、つまりSuicaPASMOと同じ感覚でカードを端末にかざすとクレジットの決済が済んでしまう。暗証番号も不要。これはちょっと怖いなと思いつつも、慣れると確かに便利である。こちらにいる間は、日常の生活費はほぼこれで支払うことになりそうなので、家計簿のうち生活費の支出は、カード明細をcsvファイルでダウンロードし、そのまま使うことにした。

出発直前からの1週間ほど間食(おやつ)をあまりしていないのと、移動が続いて、全体として食べる量が減っていることもあり、最近には珍しく努力せずにやせている感じ。普段ならば喜ばしい傾向だが、この状況でこれはいけないということで、夜は少ししっかりと食べておこうと考え、近所のパブで外食。ハンバーガーに、チーズの乗ったポテトフライ。4日ぶりのビールがうまい。

*1:クレジットカードと書きましたが、正しくはデビットカードが主流なのだと思います。例えば三井住友カード情報サイトには、イギリスの状況として、デビットカード40%、現金28%、クレジットカード8%という数字が出ていました。2020年4月の記事ですので、コロナ禍を経て、現金がもっと減ってカードの割合が増えているとは思いますが、デビットカードが中心というのは、そこまで大きく変わらないのではないかという気がします。(2022年6月27日追記)

大学院ゼミ、今年度の文献

今年度の大学院ゼミは、輪読と、大学院生の進捗報告とディスカッションを隔週で進めることにしました。輪読の方では、大学院生とも相談して次の本を読むことに決めました。一つ目の『社会科学の哲学入門』は、すでに先月から読み進めています。

その後、夏休み前までかけてこちらを読みます。

後期はまず「科学と民主主義」をテーマとしたこの2冊を読みます。

その後、年末から年明けにかけて読むのが、次の2冊です。『社会科学の哲学入門』を読む過程で、日本の社会科学論について一緒に学ぶ機会をつくりたい、という話になり選びました。

 

5/12発売『気候民主主義 - 次世代の政治の動かし方』

1年半近く、このウェブサイトをほったらかしにしてしまいました。

その間、色々なことがありました。

ここ数年とりくんできた気候市民会議や、気候変動対策と民主主義などのテーマに関する研究や実践をまとめた本が、5月12日に岩波書店から出ることになりました。

単著としては13年ぶりとなる著書です。

その前の単著は、35歳の時(2009年)に書きました。

東京大学に提出した博士論文をベースとした本です。

今、48歳ですので、このペースで行くと次の単著は13年後の61歳ぐらいまでに、ということになります。その時まで心身ともに健康で学問への情熱を失わずにやっていられるといいな、などと考えながら書きました。

が、しんどかった執筆が終盤にさしかかり、この原稿とももうお別れかという名残惜しい気分が現れてきて多少冷静になると、「次は61歳」とは言えない気もしてきました。

最初の単著は、2009年の4年前の2005年に出ていたことを思い出したのです。

大学院時代に生活費と学費を稼ぐためやっていたアルバイト(大学受験の現代文の講師)をベースにした新書でした。

bookclub.kodansha.co.jp

1冊目(2005年)から2冊目(2009年)までは、4年間。

ところが2冊目から3冊目(今回)までは13年。3.25倍もかかっています。

ということは、次は順調?にいけば13年×3.25=42年後の2064年。そのとき私は90歳か91歳ですので、生きているかどうかあやしいですし、少なくともまとまった文章を書く生活はしていないでしょう。

そんなわけで、執筆最終盤は「あぁ、単著としてはこれが最後の本になるのだ」と思いつつ、力を込めて書きました。

どこかでお目に留まりましたら、ぜひ読んでみてください。

 

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www.iwanami.co.jp

 

『気候民主主義 - 次世代の政治の動かし方』目次

はじめに
あらゆるものごとはつながり合っている/連鎖する課題群とSDGs/気候危機と民主主義の危機/筆者の専門分野と本書のアプローチについて

1 ヨーロッパに広がる気候市民会議――「くじ引き市民」が議論する脱炭素社会への転換
くじ引きで社会の縮図をつくる/気候変動とは何か/すでに生じている気候変動の影響/脱炭素社会への困難な道のり/「排出実質ゼロ」目標の意味/バランスのとれた情報提供のために/排出削減の道筋を考える/政策の基本原則についても議論/会議結果の用いられ方/フランスの気候市民会議/なぜ無作為抽出型の市民会議なのか

2 民主主義のイノベーション――危機に向き合うための変革の道具箱
ミニ・パブリックス/世界市民会議(WWViews)/市民議会の広がり/民主主義のイノベーションイノベーションの四つのツール/参加型予算/国民投票住民投票住民投票条例というイノベーション/常設型の住民投票条例/市民イニシアティブ/プレビシットという落とし穴/第一の疑問――民主主義の過剰・暴走なのではないか?/第二の疑問――エリート支配の強化につながるだけではないか?/評価基準1 包摂性/評価基準2 意思決定への影響力/評価基準3 熟慮に基づく判断/評価基準4 透明性+その他/熟議民主主義と参加民主主義の関係

3 脱炭素化のシナリオと「国民的議論」――原発事故後の討論型世論調査が残した課題
エネルギー問題としての気候変動対策/省エネ/エネルギーの脱炭素化をどう進めるか/二〇五〇年、エネルギーの脱炭素化のシナリオ/原発をめぐる世論と開かれた議論の必要性/原発事故翌年の「国民的議論」/討論型世論調査(DP)の導入/過半数が将来的な「原発ゼロ」を望む結果に/結果はどのように用いられたか/残された課題

4 日本で気候民主主義の芽を育む――地域発・若者主導の試み
世界市民会議の気になる結果/「生活の質」をテーマに市民会議を試行/コロナ禍で前倒しされた日本初の気候市民会議/「気候市民会議さっぽろ2020」/議題と情報提供の構成/くじ引きでの参加者募集に苦戦/気候市民会議での議論/投票結果/地域発の気候民主主義の広がり/「気候若者会議」というイノベーション/気候民主主義の底流にあるもの

終章 気候民主主義の生かし方
仮説としての気候民主主義/アイデアを固め、深め、広げる/制度化の必要性/気候民主主義の広がり/ことばを通じた解決にふみとどまるために

おわりに  
文献と注

気候市民会議さっぽろ2020

このサイトでも何度か紹介してきた,気候変動対策に関する無作為抽出(くじ引き)型の市民会議ですが,国立環境研究所や大阪大学と一緒に行っている科研費による共同研究の一環として,ローカル版の会議を試行することになりました。札幌市と提携して,札幌市民30人に集まっていただき,2020年11月〜12月にオンラインで行います。

下記のサイトで情報発信していきます。ぜひご注目ください。

citizensassembly.jp